ファミコン界の謎・考察シリーズ 『ポケットザウルス 十王剣の謎』の正体はその異質性にあった!
2016年04月25日09:03 謎・調査シリーズ
ファミコンにはタイトルに“謎”がつくソフトがいくつかある。すなわち以下の10本はその中でも「ファミコン界の10大謎」と呼ばれているとか、いないとか……
『アトランチスの謎』
『ゴルゴ13 イカロスの謎』
『スーパーゼビウス ガンプの謎』
『トランスフォーマー コンボイの謎』
『ドラゴンボール 神龍の謎』
『ポケットザウルス 十王剣の謎』
『ロックマン2 Drワイリーの謎』
『謎の壁』
『謎の村雨城』
『ナゾラーランド』
ファミコン界の謎・考察シリーズは毎回、そんな謎のひとつに迫っていこうという企画である。
第1弾はこれ、『ポケットザウルス 十王剣の謎』だ!
ポケットザウルスはかつてバンダイが1985年より販売していた恐竜型の文具シリーズである。爪切りや歯ブラシなど生活用品や、ボードゲームやアニメにもなったりして手広くキャラクタ展開された。2000年には再販されている。
ファミコンソフト『ポケットザウルス 十王剣の謎』は、そんな人気文具シリーズをテレビゲーム化したものである。文房具のゲーム化など史上初じゃなかっただろうか。
ただし、である。
当時、1987年はファミコン全盛期。日本中が「名人ブーム」熱にうかされており、バンダイとて例外ではなかった。同社が橋本名人を擁立し、『高橋名人の冒険島』に続けとばかりに『ポケットザウルス 十王剣の謎』をリリースしたのは想像に難くない。
同名の文具シリーズをモチーフにしながら、主人公の名前が「ハシモトザウルス」となっていたのはそのためであり、内容も敵キャラに数名、文具シリーズ出身のやつがいる程度、あとはステージがエジプトだったり宇宙だったり、敵が妖怪だったりと、ずいぶんとカオスな仕上がりとなっていたのだ。
ここで、このゲームの存在価値について、重要な指摘をしなければならない。
それは結果として『十王剣の謎』はバンダイが出した唯一とも言えるオリジナルゲームとなったということである。
ご存知の通り、当時のバンダイといえば『鬼太郎』や『オバQ』など漫画やアニメを題材にしたゲーム、いわゆるキャラゲーを多く出していたことで知られ、またそのやっつけ具合から「キャラゲー=クソゲー」という不名誉なイメージを確立してしまったメーカーでもあった。
しかし実際に調べてみると、それは間違いだったのである。
ファミコン総覧本「ファミコンプリート」によるとバンダイが発売したファミコンソフトはROM57本、DISK14本の計71本とされている。すなわち以下である。※1
※漏れていたソフトを追加修正 2016/04/27<通常ROM>
『キン肉マン マッスルタッグマッチ』『超時空要塞マクロス』『オバケのQ太郎 ワンワンパニック』『ゲゲゲの鬼太郎 妖怪大魔境』『機動戦士Zガンダム ホットスクランブル』『ドラゴンボール 神龍の謎』『ポケットザウルス 十王剣の謎』『聖闘士星矢 黄金伝説』『ゲゲゲの鬼太郎2 妖怪軍団の挑戦』『仮面ライダー倶楽部 激突ショッカーランド』『聖闘士星矢 黄金伝説完結編』『闘将!!拉麺男 炸裂超人一〇二芸』『ドラゴンボール 大魔王復活』『ファミコンジャンプ 英雄列伝』『魁!!男塾 疾風一号生』『SDガンダムワールド ガチャポン戦士2 カプセル戦記』『美味しんぼ 究極のメニュー三本勝負』『名門!第三野球部』『ドラゴンボール3 悟空伝』『おそ松くん バックトゥーザミーの出っ歯』『悪魔くん 魔界の罠』『SDガンダム外伝 ナイトガンダム物語』『おえかキッズ アンパンマンとおえかきしよう!』『ドラゴンボールZ 強襲!サイヤ人』『SDガンダムワールド ガチャポン戦士3 英雄戦記』『まじかる☆タルるートくん ファンタスティックワールド』『おえかキッズ アンパンマンのひらがなだいすき』『ドラゴンボールZII 激神フリーザ!!』『SDガンダム外伝 ナイトガンダム物語2』『ファミコンジャンプII 最強の7人』『まじかる☆タルるートくん2』『ドラゴンボールZIII』『SDガンダム外伝 ナイトガンダム物語3』『ドラゴンボールZ外伝 サイヤ人絶滅計画』『クレヨンしんちゃん オラとポイポイ』『ろくでなしBLUES』
<周辺機器系>
『アスレチックワールド』『ランニングスタジアム』『エアロビスタジオ』『ジョギングレース』『迷路大作戦』『マンハッタンポリス』『ファミトレ大運動会』『突撃!風雲たけし城』『突撃!風雲たけし城二』『来来!キョンシーズ』(ファミリートレーナーシリーズ)
『スペースシャドー』(ハイパーショットシリーズ)
『カラオケスタジオ』『ファミコンカラオケ トップヒット20 VOL.1』『ファミコンカラオケ トップヒット20 VOL.2』(カラオケスタジオシリーズ)
『ドラゴンボールZ 激闘天下一武道会』『ウルトラマン倶楽部 スポ根ファイト』『SDガンダム ガンダムウォーズ』『クレヨンしんちゃん オラとポイポイ』『幽☆遊☆白書 爆闘暗黒武術会』『Jリーグ スーパートッププレイヤーズ』『バトルラッシュ』(データックシリーズ)
<ディスク>
『ウルトラマン 怪獣帝国の逆襲』『ダーティペア プロジェクトエデン』『キン肉マン キン肉王位争奪戦』『プロゴルファー猿 影のトーナメント』『SDガンダムガチャポン戦士 スクランブルウォーズ』『ウルトラマン2 出撃!科特隊』『おもいっきり探偵団 覇悪怒組 魔天郎の挑戦』『仮面ライダーBLACK 対決シャドムーン』『ウルトラマン倶楽部 地球奪還作戦』『じゃあまん探偵団 魔隣組 (マル秘)ジゴマ操作ファイル』『機動警察パトレイバー』『タマ&フレンズ 3丁目大冒険』『SDガンダムワールド ガチャポン戦士 スクランブルウォーズ マップコレクション』『SDガンダムワールド ガチャポン戦士 スクランブルウォーズ(書き換え版)』
ご覧頂けただろうか……
一生懸命、打ち込んだのでせめて一瞥くらいはしてもらいたいのだが(笑)
頑張って全部見たひとは、もうお気づきと思う。この中で娯楽・スポーツ色の強い周辺機器系を大胆に除外していいのならば、バンダイは自社のオリジナルソフトと言えるようなものは1本も作ってないのである。すべてのゲームには漫画なりアニメなりテレビ番組なりの元ネタが存在するのだった。
つまり、何が間違っていたかというと、ファミコン時代のバンダイはキャラゲーが多いのではなく“キャラゲーしかつくっていなかった”ということだ。その姿勢は一貫しており、むしろ好感すら持てるのである。
そう考えると『ポケットザウルス 十王剣の謎』は元ネタが自社製の文具という時点で極めて独自性が高く、そのポジショニングの異質性からも同ソフトはバンダイの“唯一のオリジナルゲーム”と言わざるを得ないのである。
※1 『ファミコンプリート』に準拠し、ユタカ名義は除外したが、もし含めたとしても『ラストハルマゲドン』以外はすべて元ネタが漫画・アニメ・テレビ番組であり、『ラストハルマゲドン』にしても元ネタはPCゲームであり、バンダイの“オリジナルゲーム”とは言い難い。
そんな『ポケットザウルス 十王剣の謎』の最大の謎は、まさにその異質性にあると私は睨んでいるのである。別の言い方をすれば内容が、少々オリジナリティにあふれ過ぎているのではないかということだ。
どういうことかと言うと、まずは前述したが、本来は同名の人気文具シリーズ「ポケットザウルス」のキャラゲーであるはずが、主人公がなぜか橋本名人になってしまったことから始まって、1面こそ恐竜島という無難なステージで始まるが、次にエジプト、未来都市、妖怪魔境、神々の時代と、ほぼ何の脈絡もないステージ展開。
※本当に突然である。
パッケージ等では「クイズアドベンチャー」と謳い、アクションゲームにも関わらずプレイ中に容赦なく出題されるクイズ、流れるとりとめのないメッセージ。そしてコマンダーを倒すことで得られる意味不明なキーワード、ボスを倒し暗号を入力することで得られる難解なヒント(もはや難解な時点でヒントではないが……)。
※ゲームオーバー後のボス戦にやられると本当のゲームオーバー
さらにゲームオーバーになるとボス戦になだれ込むという演出。
ゲーム外に目を向けると説明書に掲載されている少々蛇足気味なクロスワードパズル(しかも5つもある)や、橋本名人がやたら謎解きを煽ってくるTVCMなど、もう、なんと言うか、全体的に謎。
十王剣とかそういうことじゃなくて、全体的に謎。(なぜ2度言う)
※これがそのCM
『十王剣の謎』はなぜ「これでもか」と言わんばかりに謎を詰め込んでいたのだろうか。調査を進めると、どうやらその答えは、このゲームの成り立ちにあったことを突き止めたのだった。
こちら↓
オロチ所有の「ファミリーコンピュータMAGAZINE」1986年NO.18の72ページに「少年ゲームクリエイター大募集」という特集が掲載されていた。その内容は以下の8項目についてアイデアを考え、編集部まで送ってくれというものだった。
1.主人公の名前
2.キャラクタのデザイン
3.キャラクタの得意技・アイテム
4.敵キャラの名前
5.敵キャラのデザイン
6.敵キャラの得意技
7.マップ制作
8.背景デザイン
欲しがるなあ。バンダイ。欲しがるなあ。
思い出してほしい。何度も言うようだが『十王剣の謎』は同名の文具シリーズのキャラゲーでありながらエジプト、未来都市、妖怪魔境と、まったく脈絡のない冒険をさせられ、敵キャラもラスボスの時空大帝サラマンダーをはじめ、ツタンカーム大王、バグ大王、魔王べリアルと、文具との関係性はまったく見られない内容だった。
しかし、それが全国のゲームクリエイターを夢見るキッズたちのアイデアの寄せ集めだったとしたらどうだろう。「ああ、なるほどね」である。「そりゃあオリジナリティが溢れすぎて、カオスになっちゃうよね」である。
そんな皮肉めいた見解を抱きつつ、ファミマガを読み進めていた私は、この「少年ゲームクリエイター」の企画がそのあとも度々記事になっていることに気が付いたのだった。それはまず7名の合格者の発表記事であり、制作過程をレポートした記事であり、キッズたちの様々なアイデアが検討されている様子をつたえる記事だった。
――まったくもって、年は取りたくないものである。
「ファミリーコンピュータMAGAZINE」1986年NO.20の94ページ
さっきまで文具と何も関係ないとバカにしていた敵キャラも……
「ファミリーコンピュータMAGAZINE」1987年NO.1の104ページ
蛇足気味とその存在すら批判していたクロスワードパズルも……
「ファミリーコンピュータMAGAZINE」1987年NO.1の104ページ
みんな、子供たちがキラッキラした目で考えたアイデアだったんだよ。そんなことも知らずに、私は何をぬけぬけと抜かしていたんだろう。本当に、くだらない大人になってしまったもんだ。ああ、自分をブン殴りたい(笑)
そう思ったとき、情けなくて笑ってしまったのだ。
年を取ると無駄に経験だけは積んでいるので、ついついゲーム評も偏見的になってしまう。でも違うんだ。私が情けなかったのは“そこ”じゃないんだ。
それは、全国の幼気なキッズたちのアイデアだという事実を、まざまざと見せつけられたくらいで揺らいでしまう自分のゲーム評に「いよいよ焼きが回ったな」という情けなさなんだよ。(まさかの逆!)
ゲーマーって、こうやって老いぼれていくんですね(笑)
以上で今回のコラムは終わりと言いたいところだが、最後にひとつだけオマケの謎↓
そんなキッズのアイデアが見事に採用され、同ソフトは発売当初「クロスワードWキャンペーン」なるものを開催していた。その賞品が同名文具シリーズとなっていたことは、数少ない接点として見逃せない事実である。以下は説明書からの引用。
恐竜島(ステージ1)のクロスワードをといて、「十王剣の秘密その1」の文章をハガキに書き「ファミコンポケットザウルス十王剣の謎」ステーショナリーキャンペーン係に送ってください。
人気絶調のステーショナリー「ポケットザウルス・セット」を抽選で100名様にプレゼント。
しかし、ここで注目すべきは、もうひとつの賞品である。
こちら↓
神々の時代(ステージ5)のクロスワードをといて「十王剣の秘密その五」の文章をハガキに書き「ファミコンポケットザウルス十王剣の謎」シルバーコイン・キャンペーン係に送ってください。
「オリジナル・ポケットザウルスシルバーコイン」を抽選で50名様にプレゼント。
このキャンペーンは文具セットの他に「シルバーコイン」なるものを賞品としていたのだ。おそらくそれはこのキャンペーンのために作られたものだろう。プレゼント用の他に、関係者に配る用があったとしても、その数は極めて少なかったと思われる。
さらに言えば、『十王剣の謎』は全5ステージなので、最終ステージをクリアしないとこのクロスワードパズルを解くことは難しいのだ。私オロチも実際にクロスワードパズルをやってみたのだが(パズル自体は簡単だったが)、最後にキーワードと組み合わせて文章をつくるのが意外と難しかった。(ネタバレになってしまうので詳細は割愛)
まあ、とにかくこのシルバーコインはそうとうレアであることは間違いない。もし現存していたら、一体どれくらいの価値があるのだろうか。
なんて思ってたら、出ました。こちら↓
サムネイル画像:貴重 ポケットザウルス 十王剣の謎 純銀メダル シルバーコイン
こちらのコインは出品者が地元のファミコン大会に参加したとき、橋本名人から直接もらったとのことだ。その証拠にサインまで付いている。もしかして全てのシルバーコインに橋本名人のサインがついていたのだろうか!?
この謎のついては、深まるばかりであった。
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