とくにオチはない雑考シリーズ。民俗学/宗教/オカルトが大好物なオロチが「スーパーマリオ」の世界観について、とりとめないない話をする最終回です。
◆ひとは「恥」を知る◆ ひとは死んだらどうなるのか。太古の昔から宗教だけがその問いに答えて来た。キリスト教ではひとが死ぬと神のみぞ知る場所で眠らされ
「最後の審判」の日に復活すると言われている。したがって厳密に言えば幽霊の存在は認めていない。では、西洋ベースのマリオ世界はお化けのキャラクターである「テレサ」の存在をどう説明するのだろう。
※照れるテレサ(マリオ3) 前章(
※)で述べた通り、マリオの世界は往々にして「人間vs動物」という構図を描いてきた。そんな中、人間側(主人公サイド)でありながら動物の力を借りて戦うマリオのダークヒーロー的な姿は物語に深みを与えている。そう考えるとテレサが元々人間だったのか、動物だったのかという問いが重要性を帯びてくるのだ。
テレサは白い魂状の体からちょこんと手が生えている極めて西洋的なゴースト型の幽霊である。Teresaというスペイン系の女性名でありながら性別不明で、その由来はキリスト教の聖人マザー・テレサとは無関係であり照れ屋だからテレサ。その名に違わず
「目が合っている間は照れる」という奥ゆかしい性格が最大の特徴だ。
ここで旧約聖書の創世記第3章10節を引いてみよう。
彼は答えた。園の中であなたの歩まれる音を聞き、わたしは裸だったので、恐れて身を隠したのです。
それまで動物と同等のくらしをしていたアダムとイブが蛇にそそのかされて禁断の果実を食べた際、はじめに湧いたのは神に裸を見られて「恥ずかしい」という感情がだったのだ。つまり聖書は
「恥ずかしい」という感情が人間特有のものであることを説いているのである。これはかなりの大ヒントだ。
◆人間型のお化け◆ テレサは元々人間だったのだろうか。『3』以降、ブロックテレサ(『ワールド』)、ボムテレサ(『ギャラクシー』)、ダークテレサ(『RPG』)など様々なバリエーションのテレサがシリーズに登場したが、2001年にマリオ世界のお化けを語る上で外せない作品が満を持してリリースされた。GC版『ルイージマンション』(2001年)である。
左上からパパーラ、ママーラ、ベビーラ、スプーキー ルイージがお化け屋敷に閉じ込められたマリオを助け出すことが目的のこのゲームには様々な種類のお化けが出演している。その姿はテレサやキングテレサ、ヤプー、マプー、モプーといったゴースト型、パパーラ、ママーラ、マダム・ミエールなど人間型、物体に取り憑くものまで千差万別だった。
その中でパパーラの解説文に以下のような決定的な一文があるのだ。
読書ずきで、オバケになったいまも、読みのこした本を読みつづけている。せいぜんは、しょうせつかだった。
元々人間だったことが公式アナウンスされたお化けキャラクタの登場である。本作はスピンオフ作品ではあるものの、(コンセプト的に避けて通れなかったとはいえ)ここまで人間の「死」について踏み込んだ解説がされるのは珍しい。しかもベビーラに至っては「生まれたときからオバケだった」というミステリアスな設定である。一方、動物はどうかというとスプーキーという犬型のお化けが存在することから、マリオ世界の動物は
そのまま動物型のお化けになる可能性が高いことが推測できる。
そうなってくると「恥ずかしがり屋」という極めて人間的な性格をもちながら人間型でも、ましてや動物型でもないテレサの存在が、ますます謎を深めていくのだ。もしかしたら昆虫や微生物といった低級霊、あるいはよりスピリチュアルな高次元の存在なのかもしれない。

そう考えると同作のなかで肖像画(人間型)の幽霊たちが、まるで自分たちが第三者の立場であるかようにテレサたちを「やつら」と呼んでいたことが想起される。この距離感の正体は何だろう、、、
◆テレサ種族説◆ 数あるテレサ亜種の中で言及しておかなければならない存在といえば64版『マリオストーリー』(2000年)に登場したレサレサであろう。

彼女は森の屋敷に住み、流暢に人語をあやつり、お嬢様キャラという性格をもっているなど、他のテレサとは一線を画したテレサ亜種だ。そもそも『マリオストーリー』自体、マリオと敵対しているはずのクリボー、ノコノコ、ボム兵などにクリオ、カメキ、ピンキーといった固有名詞や人間のような個性をもたせている番外的作品ではあるのだが、『マリオカート』シリーズではアイテムにされるなど敵キャラとしては
微妙な立場だったテレサが他のキャラクターと同等の扱いを受けている点のみに焦点を絞るならば、レサレサ(&セバスチャン)は非常に意義のある存在となってくる。
ここに、そもそもの問いが間違っている可能性が見出されるからだ。つまりテレサはお化けであることには違いないのだが、誰かが死んでそうなったわけではなく最初から
「オバケという種族」なのかもしれないということだ。他の人間型幽霊たちがテレサたちと距離を取っている理由もこれなら頷けるのである。

それこそ「テレサの王」と呼ばれるキングテレサの存在も、これが実際に「テレサの国を治めている王」という意味なのだとしたら、テレサ種族説を後押しする傍証のひとつになりうるであろう。
◆オバケマリオの謎◆ テレサ種族説はこんな答えも提供してくれる。Wii版『スーパーマリオギャラクシー』(2007年)に登場したオバケマリオについて、マリオが仮に死んでいるのではなく、テレサという種族の力を借りている状態だと解釈できるのだ。しかしオバケマリオには他の変身マリオと明らかに違う特徴があった。それはグラフィックを見れば一目瞭然であろう、、、

他の変身マリオが
あくまでも着ぐるみ然としたコスプレ姿であるのに対して、なぜかオバケマリオだけ完全にお化けの姿になるのである。これは一体どういうことだろうか。
おそらくオバケマリオは中へ乗り込むタイプの着ぐるみなのだろう。よく考えてみたらマリオはゲームの主人公の宿命で、冒険中にたびたび死ぬのだが、一度たりとも幽霊になっていないのだ。もちろん前章(
※)で述べた通り、マリオのミスは「死」ではなく「退場」なのでそもそも幽霊にはならないという解釈もできるのだが、もし仮に死んだとしても、マリオは人間なのでテレサのようなゴースト型ではなく
人間型の幽霊になるはずである。これは明らかな矛盾なのではないだろうか。
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以上。4回に渡ってお送りした雑考シリーズ「マリオ編」。何となく決めた4つのテーマについて、思いついたことを並べただけのエントリーなので、正直、話が思ってた流れと違う方向へいってしまったり、考察が甘いところもあると思う。4つのテーマについて、どうか皆さんの忌憚のないご意見をお聞かせ下さい。
|  | よろしくお願いします! |
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【スーパーマリオをめぐる雑考】 全4回
1.タヌキスーツの異質性
2.なぜマリオの敵は動物なのか
3.マリオ世界の「死」について
4.テレサは何のお化けなのか
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