●『パックランド』お手本説 『スーパーマリオブラザーズ』は『パックランド』(1984年/ナムコ)をお手本にしてつくられたと言われている。その際『パックランド』の進行方向が→だったためマリオもそうなったのではないかと主張するのがこの説である。

そもそも「マリオがパックランドをお手本にした」という話はどこから出てきたのであろうか。出典はおそらく飯野 賢治著「スーパーヒットゲーム学」での作者・宮本氏の発言であろう。

※内容は飯野氏がインタビューをするという形式でまとめられている。
この本の中で宮本氏は飯野氏の「スーパーマリオの登場は突然だった」という指摘に、まっさきに『パックランド』の名前を挙げている。そして以下のように語った。
東京に行ったときに『パックランド』が置いてあって、ナムコがジャンプゲームに手を出してくるのかと、それなら俺がやってやろうじゃないかと。それがきっかけ。(中略)
詳しい人は『パックランド』の真似をしましたみたいに言う人もいるけれども、『パックランド』とは全然違うゲームなんですよ。でも、ナムコがあれをやってきたから、僕のマリオは動き出したというのはありますね。
この発言を聞く限り、『パックランド』は『スーパーマリオブラザーズ』誕生のきっかけにはなったようだが、本人が「全然違う」と言っているように手本にしたわけではなさそうである。
そもそも『パックランド』の操作パネルはボタンが3つで、移動ボタンを連射することで速くなるという独特のシステムだったため、ファミコン版ではBボタンが←、Aボタンが→への移動で、十字キーがジャンプという珍しい操作体系を採用していた(IIコンでは普通に操作できた)。つまり両者はゲームの肝である操作性からして、まったく違う着想点からスタートしているのだ。
●地球の公転説 少々ぶっ飛ぶが、マリオの左右論に地球の公転などマクロな自然現象を持ち出す声もある。しかし地球の自転が→方向と誰が決めたのか。前章「オズマ問題」の段でも述べたとおり、極めてミクロな世界でしか、自然界に左右の概念は存在しない。

人間が「上下がある」と思っている理由は、重力が↓向きだからである。しかし地球は丸いので反対側では逆になる。したがって宇宙から見れば日本人にとっての上は、ブラジル人にとって下なのだ。「前後」については目がついてるほうが前という、さらにあいまいな概念である。したがって本来、地球に「前」も「後」も存在しない。ただし、物体が動いているときは進行方向が前といえるので、太陽の周りをまわっている地球には、いちおう便宜的な「前」と「後」は存在する。しかしながら、それが「左」なのか「右」なのかについては、やはり観測地点によって変わってしまうのだ。
同様にマクロな現象である自転や、台風・渦潮の向き、また回転運動つながりで、100m走や時計回りの向きなども、逆から見ると反対になるため根拠とはならないので注意が必要だ。
●進行方向が←のゲーム 第1章で「ほとんどのゲーム」は→方向だが、ごく一部で例外があると述べたが、その例外の代表格として必ず名前が挙がるのが『スカイキッド』(1986年/ナムコ)や『ボコスカウォーズ』(1983年/アスキー)である。


『スカイキッド』が←方向になった理由については、ファミコン通信220号「ゲーム・アカデミー」にて、当時のナムコCS開発部による見解が掲載されているので引用してみよう。
左から右へ自機が進行するスクロールが多い理由はキャラクターマップデータの構造によると思われます。(中略)
以前『スカイキッド』というゲームで自機を左方向に進ませるスクロールを採用したのは、縦書きの文章を読み慣れている日本人には、進行方向が右から左のほうが楽であると推測したからです。
どうやらその根拠はプログラム座標説、および言語説だったようだ。ただし結局は、影響がなかったらしく「こだわる必要はない」と語っている。

※シャープ「パソコンテレビx1」カタログより
ボコスカウォーズについては初出が「X1」というパソコンであり、キーボードを見ると操作キーが右側についているため←になったのではないかと推測するが、2016年11月に開催された『ボコスカウォーズII』発売記念イベントにおいて作者のラショウ氏は、「あの頃は西へ西へという気分だったんでしょうね」と証言している。(出典)
コロンブス、あるいは西部開拓のイメージか。
←方向のゲームは他にも『バルーンファイト』のゲームC「バルーントリップ」、それを元にした『ハロー キティ ワールド』、『影の伝説』などが挙げられるが、中には『スパルタンX』など、内容的には両スクロールであるゲームも多く、厳密に言うと「←方向のゲームは極めて少ない存在である。
●ゲーミフィケーション的解釈 マリオが左から始まる理由は「→に進め」という説明になるからと解釈するのがゲーミフィケーションという概念である。その特徴は、本質的な理由ではなく、あくまでも機能的・実践的な理由を追及しているところであろう。


初めてマリオの1-1をプレイしたとき、最初にクリボーがやってくる。当たってミスになる。次はジャンプで避ける。するとブロックに頭が当たってキノコが出てくる。何だあれはと思っているとキノコは→へ消えてしまう。しかしその先の土管に跳ね返って←へ戻ってくる。強制的にキノコを取る。大きくなる。パワーアップアイテムだと知る。というように、1-1というステージはすべてがチュートリアルになっているという。
この概念は社会生活やビジネスにも応用されている。
以上。
他に説があったら教えてください。
●私的メモ:西洋と東洋の左右論 日本は左上位の国である。この概念は中国が唐(618年-907年)の時代に伝わったと言われている。当時、中国では陰陽思想に基づき「天子南面す」といって太陽が昇る東、すなわち左(←)が上位とされたのだった。したがって属性も左が陽、右が陰とされている。ちなみに唐よりずっと前の漢(紀元前206年-)の時代はまったく逆だったという。中国は王朝が変わるたびにどちらかになったようだ。
ともかく日本の左上位の概念は、中国から導入され今日まで続くことになる。右大臣よりも左大臣のほうが身分が高く、和服も、ふすまも、左側を前にするのが作法(ただしこれは自分から見た場合であり、他者から見た場合は「右前」となる)である。7世紀ごろに編纂された日本の正史書『古事記』によるとアマテラスはイザナギの左目から生まれたとされる。
しかしながら「右に出る」、「右腕」など「右」の字が入った単語にはポジティブなものが多いのに対して、「左遷」など、「左」の字が入った単語にはネガティブなものが多い。これは、それらが中国の漢の時代の概念から生まれた言葉だからと言われている。(だから漢字というのだ)
また、左右の話題で必ずと言って言いほど挙がる「雛飾り」も最初は左上位だったが、大正時代に国際作法にしたがって右上位になった(詳細は割愛)。要するに日本はゴチャゴチャなのだ。

※Google画像検索より
一方、西洋は右上位である。古代キリスト教では左手は悪魔が宿るされた。イスラム教では「左手は不浄」とされている。英語で右「Right」には「正しい」という意味があるが、左「Left」の語源は「弱い」「価値がない」という古英語である。この概念は、主要国首脳会議(偉いほうが右に並ぶ)や、オリンピックの表彰台(1位から見て2位が右、3位が左)などにも反映されており、現在、日本の皇室もそれに倣っている。雛飾りが右上位になったのはこのためである。
●参考文献・参照サイト一覧 <参考文献>
・横井軍平ゲーム館(1997年/アスキー/横井軍平 牧野武文)
・ファミコン通信1993年3月5日号「NO.220」(1993年/アスキー)
・スーパーヒットゲーム学(1998年/扶桑社/飯野賢治)
・図解雑学「左と右の科学」(2001年/ナツメ社/富永裕久)
他
<参照サイト>
・物語の進行方向について(2008年3月27日/島国大和のド畜生)
・ゲームの右と左 マリオはなぜ右を向いているのか(2008年3月28日/最終防衛ライン3)
・ゲームの進行方向の話(2008年3月31日/島国大和のド畜生)
・落ちるアクシズ、右から見るか?左から見るか?(2011年8月28日/HIGHLAND VIEW )
・映画が抱えるお約束事(2012年1月9日/(中二のための)映画の見方)
他
<スーパーマリオの左右論シリーズ>
(1) インターフェイス由来説
(2) 言語・科学的プローチ
(3) 物語としてのロジック
(4) その他諸説について
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