幻の発売中止SFCソフト『サウンドファンタジー』をめぐる物語 (3/3)
2010年8月――
原宿VACANTにて「横井軍平展 -ゲームの神様と呼ばれた男-」が開催された。そこにはメディアアーティストとして表舞台から姿を消していた岩井敏雄(敬称略)の姿があった。トークショーの出演が目的だったことが、自身のブログに言及されている。(※出典)
そこで彼は、かつて横井軍平(敬称略)とともに開発していた幻のSFCソフト『サウンドファンタジー』のパッケージや説明書などを披露。開発ROMを持参して実際にプレイして見せた。
その様子がこちらである。
この開発ROMが最終版と見て間違いないだろう。
1999年に放送されたNHK『課外授業 ようこそ先輩』に出演したときも、彼はこの開発ROMを持ち込み、生徒たちに『サウンドファンタジー』を遊ばせているシーンが確認されている。

※ 『岩井俊雄の仕事と周辺』(六曜社/2000) サウンドファンタジーより
また、2000年に発行された『岩井俊雄の仕事と周辺』にも、彼の所有している最終版開発ROMのものと思われる画像がいくつか掲載されていた。
結局のことろ、ふたりの天才をもってしても、ゲーム性とアート性が奏でるハーモニーは不協和音に終わったわけだが、それはあまりにも早すぎる挑戦だった故か、それともただのアイデア倒れだったのか……
ひとつだけ確実なことが言えるとしたら、『サウンドファンタジー』の不発以降、次世代を象徴するゲーム機の登場によってゲーム性とアート性の両立を果たしたような奇作・怪作・傑作が、次々と世に放たれるようになったということだ。
『サウンドファンタジー』の位置づけを見定める上で、そういった流れも押さえておくに越したことはないだろう。以下、マルチメディア時代にリリースされた「アート性が高い」と評されている作品たちを見て行くことにする。
これらの作品の多くは「ゲーム性とアート性の融合」を目指していたというよりも、マルチメディア時代がもたらした様々な可能性を、ゲーム的なアプローチによって実現させたことによって、結果的にゲーム性とアート性が融合しているように見える作品と表現したほうが近いと思われる。
その点があくまでメディアアート的アプローチにこだわった岩井作品との違いである。
※ もちろん『サウンドファンタジー』とこれらの作品とでは、そもそもコンセプトが違うということは承知の上で比較している。
最後に、メディアアーティスト岩井俊雄が満を持して世に送り出した『エレクトロプランクトン』の内容から推測する『サウンドファンタジー』発売中止の原因と、ゲーム性とアート性の両立について指摘しておきたい。
動画を見てもわかる通り『サウンドファンタジー』の面影はないが、むしろ、没入性の高いハンドヘルド型、そして直感的な操作が容易なタッチペン入力というDSの強みが、岩井の目指すメディアアート作品の方向性と非常にマッチしており、彼の実現したかったことを、SFC時代よりも数段高い次元へ昇華させた作品のようにも見える。
そう考えると、『サウンドファンタジー』が発売中止となった原因は、早すぎたのではなく、単純にSFCとの相性が悪かっただけのように思えるのだ。
ただし芸術性が高い作品が、必ずしも商業的に成功するわけではない。『エレクトロプランクトン』もまた、その完成度のわりにヒットしたとは言いがたい作品だった。
それはビデオゲーム以前から存在した映画・漫画・アニメといったメディア作品が通って来た道なのかもしれない。『Rez』の寸評の中でも少し述べたが、ことさらゲームに対する「芸術的」という評価は、前衛的すぎる作品、あるいは商業的に失敗した作品に対するエクスキューズ的な意味合いで使用されることが多かったため、ほとんどのゲームクリエイターはこの言葉を歓迎していないのだ。故に、彼らはゲーム的アプローチに固執しているとも言えるであろう。
あるいは盲信しているのかもしれない。なぜなら我々も信じているのだ。その異常なまでの全能性と、とてつもない発展力でもって、ゲームは簡単にアートを飲み込むことができるということを。しかしそれはアートも同じことだ。アートもまた、簡単にゲームを飲み込むことができるくらい異常なまでに「何でもあり」で、とてつもない勢いであらゆるものを内包して来た。
つまり、両者は最初から融合などしないのだ。両立などありえない。そこには、どちらかがどちらかを飲み込むことでしかお互いの存在を認め合えないという排他律しかないからだ。そう考えると『サウンドファンタジー』もゲームの土俵に立っていた時点でゲームでしかなかった。かつ、それで十分だったのだ。任天堂が求めたものは「そういうこと」だったのではあるまいか……
いずれにせよ『サウンドファンタジー』はゲーム史の徒花などではない。それはゲームとアートの排他律という難敵に挑んだ、一人のメディアアーティストの戦いの記録である。私はこの貴重な「枯れた技術」がいつまでも保存されていくことを願うのだ。
(終)
幻の発売中止SFCソフト『サウンドファンタジー』をめぐる物語
・第1章 歴史に埋もれた幻のSFCソフト
・第2章 あくまでも目指したメディアアート作品
・第3章 ゲーム性とアート性は両立するのか?
<参考文献>
『オトッキー』説明書(アスキー/1987)
『岩井俊雄の仕事と周辺』(六曜社/2000)
『アイデアはどこからやってくる? (14歳の世渡り術) 』 (河出書房新社/ 2010)
<参照リンク>
・岩井氏、岩田氏、宮本氏が『エレクトロプランクトン』を語る!(ファミ通)より
・Sound Fantasy(BS-X Project)
・Portrait of the Artist as a Young Geek (wired)
<参照動画>
・SNES Sound Factory (JP Sound Fantasy)(youtube)
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