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ぶっちぎりで予選突破したのに、、、『スーパーモンキー大冒険』全国大会で起こった知られざる悲劇の物語

◆ながいたびがはじまる..◆

 世の中にクソゲー数あれど、作者自ら「ボツにすべきだった」と慙愧の念を表明してしまったクソゲーは『元祖西遊記 スーパーモンキー大冒険』の他にはないでしょう。

nagaitabi1.jpg
作者公認&謝罪!! 伝説のクソゲー『スーパーモンキー大冒険』の発売記念に開かれた謎の全国大会「天竺ファミコンゲーム駅伝」がとんでもねえ一大イベントだった件(2018/05/24)

 しかもこれ、クソゲーのご多分に漏れずクリアはおろか、プレイすることすら困難な内容だったにもかかわらず、「天竺ファミコンゲーム駅伝」というクリアまでの時間を競う大会を全国規模で実施するという狂気の沙汰(ミラクル)を成し遂げているのです。

 それは今から30年以上前の出来事でした。

tennjiku5.jpg
 出典:87年当時の雑誌「ファミ通」より、大会の日程など

 今回はそんな全国大会で起こった知られざる悲劇の物語へ迫りましょう。出典は2002年頃、ひっそりとWEBアーカイブ化されていた参加者の手記です……

 ………………
 …………
 ……


◆超バブリーな全国大会◆

 当時中学生だったH君(仮名)は同級生のゲーム友達と「天竺ファミコンゲーム大会」の大阪地区大会へ出場。ぶっちぎりで予選を突破しました。そのときの様子が以下のように綴られています。

一人ずつチェックポイントで交代しながらゴールまでプレイし、ゴールまでのプレイ時間を競うというルールで、私のチームは最初のコマンド入力に失敗してタイムロスしたにもかかわらず、2位以下に大差をつけてブッちぎりで優勝した記憶があります。

 朝、わずかなおこづかいだけ持ってどこかへ出かけて行った息子が、大きなダンボール箱(賞品のラジカセ)を抱えて帰ってきたので、親御さんにビックリされたんだとか。そりゃ、ビックリするわ(笑)

monkytenjiku01.jpg
 ※同ソフト説明書より。当初は「親子」というくくりだったがのちに撤廃された模様


 そして迎えた決勝大会。手記ではその超バブリーな内容が参加者ならではのリアルな言葉で語られていました。

・会場はヒルトンホテル
・食事もイタリア料理などでかなり金がかかっていた
・優勝賞品はTV、準優勝賞品はビデオだった
・「藤木まり」とかいうデビュー前のアイドルがゲストで来ていた
・新幹線等の交通費、宿泊費、食費はすべて向う持ち

 VAPさん、どんだけ金余ってたん……



 この待遇には、ファミコンにあまりいいイメージの無かったH君のご両親も態度が一変。チームメイトと練習をしていたら珍しくおやつを出してくれたり、帰り際「ご苦労様」なんて言ってくれたりという漫画みたいなエピソードが笑えます。




◆盲点をついた秘策◆

 実はH君には優勝に絶対の自信がありました。なぜなら彼は時間を操ることができたからです。予選をぶっちぎりで突破できたのは、この秘策のおかげでした。

このゲームにはタイムゲートというものが存在し、それはゲーム内の時間で夜にしか開かないのです。(中略)この大会で優勝するためには一つのキーポイントがあって、それはマップ画面よりも戦闘画面の方が時間の進み方が速いということなのです。

 彼はこの挙動を利用して、タイムゲートの手前で戦闘を終えたあとにわざと戦闘画面から抜けず待機することでゲートが開くまでの時間を短縮するという、離れ業をやってのけていたわけです。

Smonky1.jpg
 ※戦闘画面

 しかも他のチームはそれに気づいてなかったようで、H君のチームは決勝大会でもぶっちぎりの早さで序盤をリードしました。




◆思わぬアクシデント◆

 大阪チームはやい!
 大阪チームはやい!

 司会者のボルテージも最高潮に達します。しかしそんな彼らを思わぬアクシデントが襲いました。さんざん練習したパターン通りにゲート前で敵が出現しないという緊急事態が起こったのです。その理由は思いもよらないものでした。そのときの鬼気迫る様子を、少し長めに引いてみましょう。

私達はぶっちぎりでタイムゲートの近くまでやってきました。そして、散々練習したパターンではその時点で夕方になっているはずだったのですが、そのときはいつになく快調に進んでいたため、まだ昼間だったのです。ここで、戦闘画面で時間を調整して夕方になってから先に進めば良かったのですが、まあ大丈夫だろうと思い、そのまま進んだのが運のツキだったのです。パターン通りではゲート手前で戦闘になるはずが、昼間だったので敵が出ない!慌ててもう一つ手前の戦闘ポイントまで戻ったが、それでかなりタイムをロスし、その後はもうボロボロで結果は4位か5位に終わりました。

 あーあ、、、

 この一連の流れに、私は思わず古代中国の思想書『韓非子』のエピソードを想起せざるを得ませんでした。それは、とある武将が戦で想定以上の成果をあげたにもかかわらず「想定通りでなかった」という理由で処罰されたというムチャクチャな話です(笑)

韓非子 (中国の思想)
 ※詳しくは「刑名参同」でググってね

 たいていのひとは「むしろ褒めてやれよ」と思うでしょうが、情勢が不安定だった古代中国では、それほどまでに賞罰システムを厳密化する必要があったのでしょう。あるいは戦況を分析し、目標をたて、ピッタリその通りに行動できるくらいの能力がないと生き抜くことができない理不尽な世の中だったのかもしれません。いずれにせよ平和な日本に生きる我々には理解したがいことですが、少なくとも私は韓非先生に「物事はうまく行き過ぎてもダメなんだよ」って言われているような気がしたのです。

 どうやらH君の三蔵法師は「韓非子」を読んでいなかったようですね、、、




◆H氏のモンキー評◆

 そんなこんなで、優勝したのは南九州地区代表で唯一の高校生チームでした。しかし時間を操るカラクリについては彼のチーム以外、スタッフを含め、誰一人として気づいてない様子だったとH氏は述懐します。

大会後、大会スタッフの人が、スーパーモンキー大冒険のカセットを記念に持って帰ってもいいと言った途端、「売りに行こう」といってみんなで取り合いになったのは非常に微笑ましい思い出。

 いやいや、せめて家まで持って帰ってあげて!(笑)

tennjiku4.jpg
 ※大会の様子を伝える当時の記事


 気になるのはそんなH氏が純粋にゲームとして『スーパーモンキー大冒険』をどう評価するのか、という点ですが、彼は次のように断言しています。

で、私自身のこのゲームの評価ですが、それははっきり言ってクソゲー以外の何物でもないです。

 結局、クソゲーかいっ!

 H氏は具体例を挙げつつ本作をを説明不足で、不親切で、不条理なクソゲーとこき下ろします。しかし、言葉は続いてしました。

ただ、不思議なことに私はこのゲームのプレイがそれほど苦痛にはならないのです。

 なんと、彼は決して快適とは言えない遅い歩みはむしろ中国大陸の広大さを表現しており、行く先々で襲ってくる妖怪たちも地道な旅を続ける三蔵一行の困難を実感できる舞台装置だとして、本作を最高の西遊記シミュレータであると評してみせるのです。

 この、
 圧倒的、
 当事者の視点よ!



◆その魅力を再認識◆

 ――私はつくづく思います。

 ゲームは体験なんだなと。たとえ作者すらクソゲー認定しちゃうような残念なゲームであっても、こうやって子どもの頃に一生懸命やったことってのはいつまでも憶えているものですよね。ましてや全国大会に出場できるほど打ち込んだものならば、その経験はきっと彼の人生のプラスになっているはずです。それどころか、他者にも影響を及ぼすことだってあるでしょう。現に私はこれほどまでに独創的で素晴らしい『スーパーモンキー大冒険』評を読んだことがありませんでした。彼が発見した「時間を操る秘策」を試したくなりましたし、何より、さんざん酷評され嘲笑されネタにされてきたこのゲームの魅力を、今さら再認識させられるなんて思ってもみなかったのです。

 誰かのゲーム評を読んで「ありがとう」という気持ちが湧いたのは何年振りでしょうか。もしかしたら初めてかもしれません……

 ちなみに、H氏が獲得した大阪地区大会の優勝楯と、全国大会の参加記念楯は、当時いっしょに東京(決勝大会)へ行った親父さんの手によって実家に飾られているとのことです。きっと30年経った今でも大切に飾られているんでしょうね。手記では「親バカ」なんて揶揄されていましたけど、今ではむしろ、この親父さんの気持ちのほうがわかるような年齢になっちまったよ。いやだねえ(笑)



orotima-ku1.pngおしまい



 引用元:元祖西遊記 スーパーモンキー大冒険(クソゲー兄弟仁義)-Web Archive
 ※前回のコメント欄で情報提供いただきました。ありがとうございました。
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コメント

ネタでしか語られないのはデザイナーさんのせいでは

なんかファミコンロッキーにでもなりそうなくらいのドラマチックな話ですね。
それはさておき、スタートの際に入力していたコマンドってなんだろう?

詳しくはわかりませんがコンティニューコマンドらしいです。

ゲームは体験なんだという一文に激しく同意させていただきます
子供のときトランスフォーマーのアニメが大好きで、テストで良い点を取ってやっと買ってもらえたコンボイの謎
その後しばらくソフト買ってもらえず一年近くも遊び続けた思い出のゲーム

クソゲーと言われるのもよく分かるのですが、いわゆる動画勢や、冒頭数十秒くらい触っただけで馬鹿にして投げるような人たちには軽々しくクソゲーとか言ってほしくないような妙な愛着と思い入れが今でも有ったりします(笑)

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