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ゲーム界の祟り神「飽きる」という感情をめぐる雑考

<ひとつのゲームをやり続けるひとたち>

 ひとつのゲームを愛し続け、何年間もプレイしてるひとっていますよね。

 26年間、ひたすらボンバーマンをやり続けているおばあちゃん(※)が話題になったとき、改めて「ゲームって偉大だな」って思ったもんです。
 世界に目を向けると、いまだに初代『スーパーマリオブラザーズ』の最速クリアに挑戦し続けているひと()や、『マリオカートWii』を9年間やり続け、隠しモードを見つけてしまったひと(※)もいます。おそらく、彼らは周りから変人扱いされてきたでしょうが、神様だけはちゃんと見ていました。

 ただし、私がメーカー側の人間だったら、きっとこう言うに違いありません。
 「いつまでやってんだ!」と……




<強力な殺虫剤のジレンマとは?>

 クイズです。

<問題>
 とある殺虫剤メーカーに勤務しているAさんが、長年の研究の成果によって、地球上の害虫をすべて駆除できるくらい強力な殺虫剤を開発したところ、上司から猛烈に怒られてしまったそうです。なぜでしょう?


dk3.jpg
 ※殺虫剤といえばこのゲーム

 答え合わせです。

 なぜAさんは上司に怒られてしまったのでしょうか。その理由は、地球上から害虫がいなくなってしまったら、殺虫剤が売れなくなってしまうからです。

 そもそも殺虫剤メーカーの目的は害虫を駆除し続けてお金を儲けることであり、完全に駆除することではありません。Aさんは越えてはいけない一線を越えようとしていたのですよ。命拾いしましたね。きっと殺虫剤メーカーのトップと、害虫のトップは裏でがっちり握手しているズブズブの仲なのでしょう……




<ゲームは飽きてもらってナンボの商売>

 この話をゲームソフトメーカーに置き換えたらどうなるでしょうか。

 たとえばメーカー側としたら消費者にゲームを買い続けてもらうためには、今やっているゲームに飽きてもらわなければなりません。よくゲームの宣伝文句に「1000回遊べる」とか「やりこみ要素が無限大」とかありますが、バカ正直にその通りやってくれたら困るわけです。SNS上で「ゲームなんてしょせん娯楽だ」「ジャンジャン消費してくれ」と愚痴をこぼしている関係者を見かけたことありませんか。夢もへったくれもありませんが、残念ながらそれが本音なのでしょう。

 そう考えるとゲームソフトメーカーにとって「飽きる」という感情は駆除すべき相手ではありません。むしろ必要不可欠な存在と言えるでしょう。ゲームビジネスは人々の「飽きる」という感情に依存してきたのです。

 おそらく冒頭に挙げたような、ひとつのゲームをやり続けるひとたちは少数派であり、幸いなことに、大半の人々は飽きっぽいので、いくらメーカーが最高だ、究極だと喧伝したところで、彼らは必ず飽きてくれました。

 それよりも、深刻なのは人々がゲーム自体に飽きてしまうことです。

 まるで禅問答のような話ですが、結果的にゲームには「適度に飽きられつつ、根本的に飽きられないこと」が求められました。前半部分は何とかなっています。しかし後半部分は永遠のテーマなのです。




<「飽きる」という感情を軸にすると見えてくるもの>

 ところが近年になって、劇的な変化が訪れました。とある画期的なシステムが新機軸をうち立てて、急速に人々に受け入れられていったのです。それは携帯ゲームの課金システムでした。

 課金システムは同じゲームを継続的にプレイしてもらわなければ儲からない構造になっているので、飽きられたら困ります。そういう意味では従来のシステムとはまったく逆のスタンスでした。ならば「飽きる」という感情を軸にしたガウス平面を展開すれば、理論上、それぞれ対になる消費者が存在するはずだと私は考えました。

 今、こいつは何を言ってるんだと思いましたか(笑)

keizai02.jpg
 ※イメージ図 丸の大きさは適当です(笑)

 そんなに難しい話ではありません。軸を増やすことで上下逆、左右逆、裏表逆というような色んな逆が生まれるように、ゲームメーカーと消費者との関係にも色んな逆があるんじゃないかと思っただけなのです。

 たとえばこのような図にすることによって、レトロゲーマーと、ひとつのゲームをやり続けるひとたちって、実はそんなに近い存在じゃないんだなあとか、課金ゲームとは相性が悪そうだなあってことがわかるのです。もちろん、課金ゲームが好きなレトロゲーマーだって居るでしょう。そういった意味では、それぞれの丸はもっと重なっているのかもしれません。あくまでもこれは傾向が見えるという思考実験です。




<Dくんはチーズ蒸しパンが大好きだった>

 最後に、私の知人が実際に体験したという、とっておきの話をしましょう。

 高校生だったDくんはチーズ蒸しパンが大好きで、毎日、お昼にチーズ蒸しパンを食べていました。本当に、狂ったように毎日、チーズ蒸しパンを食べていました。
 その日も、いつものようにコンビニで買ってきたチーズ蒸しパンの袋を開け、一口、かじりつきました。普通に美味しかったそうです。ところが、二口目をかじりついたとき、Dくんは思いました。

 「もう、いいや」と……

ヤマザキ ニュー北海道チーズ蒸しケーキ×3個 ※ご注文確定後のキャンセルはできません。

 結局、Dくんはその日以来、チーズ蒸しパンを食べられなくなってしまったそうです。

 彼はシニカルな表情を浮かべながら「きっと、飽きちゃったんだ」と述懐しました。一口目までは普通だったのに、二口目をかじりついた瞬間、そのチーズの匂い、もちもち感、舌触り、生地の甘さ、色、持った感じ、すべてにウンザリしたんだ、と……

 正直言って「飽きる」という感情のメカニズムについては、よくわかりません。そのような悲劇は、ある日突然、理由もなく訪れるのでしょう。(しかも秒単位で!)
 しかし私は彼のことを笑えませんでした。なぜなら1面をクリアした瞬間、何もかも、どうでもよくなってしまう可能性は、ゲーマーにだってあるからです。その日から私はコントローラを握れなくなってしまうかもしれません。



<それは人々に宿っている小さな神様>

 以上のように、「飽きる」という感情は、うまく付き合ってさえいれば、我々に様々なゲームを楽しむ機会を与えてくれますし、大人しくしていてもらえば、ひとつのゲームを長く続けることもできるのです。ただし、機嫌を損ねてしまうと、取り返しのつかない事態を引き起こしてしまう、言うなれば“飽き神様”です。

 祟り神の一種なので典型的なツンデレですが、決して忌むべき存在ではありません。それは立場に関係なく、あらゆる人々に宿っている小さな神様なのでしょう。

(完)
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コメント

課金ゲームはプレイ実績の蓄積がゲーム内に行われていて、
飽きてそのゲームを止める事はその蓄積を手放す事になるのかなぁ、と。

ひとつのゲームをやりこむひとたちはゲーム外への蓄積、
例えば自分自身にノウハウの蓄積を行っているのかなぁ、と。
またはゲームから引き出した情報等をネットで公開するなどして、
ゲームとは別の世界で満足を得ているんじゃないかなと。

チーズ蒸しパンの話はフィクションっぽいですが言わんとしてる事はわかります
ふとした瞬間に飽きるパターンってあるんですよねぇ、脳内のメカニズムって不思議です

>それよりも、深刻なのは人々がゲーム自体に飽きてしまうことです。

どんどん操作が複雑、どんどんシステムが複雑になっていくと
もうゲーム自体いいやになって、ユーザーを減らす結果にもなるな

つか既になってるのかも?

ロボ平さん
そういった意味ではボンバーマンおばあちゃんと、スーパーマリオ世界記録のひとたちは区別して考えなければならないかもしれません。これは完全に僕の想像でしかありませんが、おそらく前者は本当にそれしかやってなく、後者は息抜きに他のゲームもやっているでしょう。そう考えると、本当に「ひとつのゲームをやり続けているひと」っていうのは、一握りしかいないのかもしれません。

チーズ蒸しパンの話は多少、脚色してますが実話です(笑)
たぶん彼は人生で食べられるチーズ蒸しパンの閾値を越えてしまったんだと思われます。それが、たまたま、その日の二口目だったと。とある生物学者が提唱した「百匹目の猿」という概念に基づいて考えれば、もしかしたらその先には人類全体のチーズ蒸しパンの許容量といったものがあって、いつか、その閾値を越えてしまったら、人類全体がチーズ蒸しパンを食べられなくなってしまうかもしれません! 今、こいつは何を言ってるんだと思いましたか(笑)
 もっともこの現象はオカルト界隈では有名な似非科学話なんですけどね。

ひとは人生の色んなタイミングでゲーム自体に飽きてしまいますね。その多くは引っ越しや就職、結婚といった外的要因なのかもしれません。しかし、ゲームが複雑になるだとか、マンネリ化するだとか、内的要因に関してはできるだけ取り除いておくに越したことはないでしょう。ただ難しいのは「飽きさせない」工夫と、「面白さ」の追求って同じようで違うんですよね。両者は決して二律背反するものでもありませんが、この微妙な違いを意識しているかどうかは、非常に大きいと思います。

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