世界を惑わせたゲーム『テトリス』の人物相関図を描いてみた&感想
※以下の文章は書籍『テトリス・エフェクト―世界を惑わせたゲーム』のネタバレ要素を含みますので、まだ本書を読んでいない方、ネタバレは勘弁という方はご注意ください。
<テトリス誕生秘話>
ダン・アッカーマン著『テトリス・エフェクト―世界を惑わせたゲーム』の主人公は二人いる。

ひとりはテトリスの生みの親アレクセイ・パジトノフだ。
ときは冷戦時代。彼は旧ソビエトの機関に所属する一研究員だった。本書ではそんなパジトノフの「数学の神童」と呼ばれた幼少期から、テトリミノというアナログ・パズルゲームに出会い、それが原始『テトリス』につながるまでの詳細が語られている。
パジトノフの着想したテトリスという概念がプレイに堪えるゲームの形になったのは、当時、ドラトニーツィン・コンピューティングセンターに足しげく通っていたという天才高校生ゲラシモフの功績が大きい。仕事の合間に同僚パブロフスキーと三人で原始『テトリス』を改良していく様子は、まるで学校の授業をサボって悪巧みをしている生徒のようなドキドキ感も相まって楽しませてくれる。
やがて完成したパジトノフ/ゲラシモフ版『テトリス』は研究所で小さなブームとなり、その火種が東欧ハンガリーまで届くのだった……
<意外と日本と馴染みの深い人物>
そして、もう一人の主人公はBPS社のヘンク・ロジャーズだ。
複雑な生い立ちの彼はハワイで学生時代を過ごしたあと、宝石商だった継父が拠点としてた日本へ移住。そこでBPSという会社を立ち上げ、日本のRPGの先駆けのひとつPCソフト『ザ・ブラックオニキス』を苦労しながらヒットさせる。
次に彼が目をつけたのがファミコンだった。彼はもともと囲碁好きだったこともあり、同じく囲碁好きで知られる山内元社長率いる任天堂へ直談判。持ち前のネゴシエーションスキルを発揮し見事、任天堂のふところへ入り込むことに成功したのだった。
※クリックで拡大
ひょんなことから『テトリス』の存在を知ったロジャースは、さっそく米スペクトラム・ホロバイト社より日本におけるPC版のライセンスを取得。テンゲンからは家庭用ゲーム版のライセンスを取得することに成功した。
しかし、それは彼がニンテンドー・オブ・アメリカ(NOA)の荒川元社長に当時まだ発売前だったゲームボーイを見せてもらったときのことだった。彼はこの新しいハンドヘルドゲーム機の成功には『テトリス』が不可欠と力説。自らも『テトリス』の可能性を認めた荒川から、旧ソビエトへ飛んでハンドヘルドゲーム機版のライセンスを取得してくるよう依頼されるのだ。
さっそくモスクワに到着した彼を待っていたのは二人のライバル。ロバートスタインとケヴィン・マクスウェルである。交渉相手は旧ソビエトの謎の官僚組織EROLGが誇る鉄の男。ニコライ・ペリコフだ。果たして交渉の行方はいかに?
<複雑極まりないライセンスの流れ>
PCやソフトウェアを売りさばく英国商人ロバート・スタインもまたこの物語で大きなカギを握る人物だ。
そもそも『テトリス』を商業的に“発見”したのはこの男だった。未知のソフトウェアを求めて東欧諸国を巡っていた彼は、ハンガリーにてパジトノフ/ゲラシモフ版『テトリス』と出会う。天性の洞察眼でそれが売れることを確信したスタインはさっそくライセンス取得を試みるが、旧ソビエトの鉄のカーテンは厚く、数か月かけてパジトノフと2,3回テレックス(当時のファックスのようなもの)をかわすのが精一杯。
その後、そのやりとりは無効とされ、一旦はELORGのアレクサンドル・アレクセンコ(ペリコフの前任者)からIBM互換機版に関するライセンスを取得できたものの、家庭用ゲーム機やアーケードに関するライセンスはあやふやなまま、スタインは、英国メディア王・ロバート・マクスウェル・グループ傘下のミラーソフト社へサブライセンスを許諾してしまう。
※クリックで拡大
すぐに、サブライセンスを受けたミラーソフト社の姉妹企業である米スペクトラム・ホロバイト社が『テトリス』をさらに改良し、ロシア風味を全面に押し出して販売することになった。これがのちに当局の逆鱗に触れることになることなど知る由もない。
ところがミラーソフトのジム・マッコノチーは何を思ったか、テトリスのサブライセンスを当時、しぶとく業界に君臨していたアタリゲームズへただ同然の取引で譲ってしまう。それに激怒したのがスペクトラム・ホロバイト社のフィル・アダムだった。この対立がサブライセンスの流れをより複雑化させてしまったのは言うまでもない。
一方、テトリスのサブライセンスを受けたアタリゲームズの中島元社長はさっそく自社メーカーであるテンゲンにNES版『テトリス』をつくらせ、アーケード版のライセンスはSEGAに発行。日本のファミコン版ライセンスをBPSに発行した。
しかしそんな動きを黙って見ているはずもいない男が一人いた。それは任天堂の山内元社長である。物語はここから佳境へ突入するのだった……
<疑問点と良点と不満点>
本書は「交渉術」や「ゲーム・オーバー」や「セガvs任天堂」と比べて、翻訳文特有のキザな言い回しや、やたら細かい情景描写などがないので読み進めやすい。また、登場人物が多いという点も相関図をつくりながら読むと、逆に新しい名前が出てくるのが楽しみになってくるのでお勧めだ。



※私オロチが今まで読んだゲーム系洋書
個人的に疑問に思った部分は2点。
まず、NOAの荒川實が大した説明もなくトップシークレットだったはずのゲームボーイのプロトタイプをロジャースに見せている点。あまりにもあっさりとしていて拍子抜けする。荒川に直感でも働いたというならその説明が欲しかったところ。
そしてもうひとつは終盤、ロジャースが2人のライバルと挑んだペリコフとの交渉の場で、ほぼ彼の独壇場だった点だ。これがフィクションなら一番盛り上がる場面にすると思うのだが、ドラ息子のケヴィンはともかく、スタインが意外とヘボで少々ガッカリである。
ライバルポジションだった2人が勝手に自滅しただけといった印象は否めず、この山場が盛り上がりに欠けたせいで、その後の任天堂とアタリとの訴訟合戦の描写が蛇足気味になってしまっている。(まあ、実際そうだったんだろうけど)
※クリックで拡大
良点としては巻末にそれぞれの登場人物のその後が描かれていることが挙げられる。ノンフィクション本ならではのこの配慮はありがたい。中にはギョッとする最後を遂げた人物も……
ただ1点のみ不満があるとしたら、値段がちょっと高いところか。この値段だとよっぽどのテトリスファンでない限り買わないかもしれないが、文字通り世界を惑わせた名作パズルゲーム『テトリス』が如何にして創られ、発見され、世界へ広まって行ったのか。少しでも興味があるなら是非、手に取ってほしい良書であることは間違いない。
久しぶりにゲームボーイの『テトリス』でもするかな!
<テトリス誕生秘話>
ダン・アッカーマン著『テトリス・エフェクト―世界を惑わせたゲーム』の主人公は二人いる。

ひとりはテトリスの生みの親アレクセイ・パジトノフだ。
ときは冷戦時代。彼は旧ソビエトの機関に所属する一研究員だった。本書ではそんなパジトノフの「数学の神童」と呼ばれた幼少期から、テトリミノというアナログ・パズルゲームに出会い、それが原始『テトリス』につながるまでの詳細が語られている。
パジトノフの着想したテトリスという概念がプレイに堪えるゲームの形になったのは、当時、ドラトニーツィン・コンピューティングセンターに足しげく通っていたという天才高校生ゲラシモフの功績が大きい。仕事の合間に同僚パブロフスキーと三人で原始『テトリス』を改良していく様子は、まるで学校の授業をサボって悪巧みをしている生徒のようなドキドキ感も相まって楽しませてくれる。
やがて完成したパジトノフ/ゲラシモフ版『テトリス』は研究所で小さなブームとなり、その火種が東欧ハンガリーまで届くのだった……
<意外と日本と馴染みの深い人物>
そして、もう一人の主人公はBPS社のヘンク・ロジャーズだ。
複雑な生い立ちの彼はハワイで学生時代を過ごしたあと、宝石商だった継父が拠点としてた日本へ移住。そこでBPSという会社を立ち上げ、日本のRPGの先駆けのひとつPCソフト『ザ・ブラックオニキス』を苦労しながらヒットさせる。
次に彼が目をつけたのがファミコンだった。彼はもともと囲碁好きだったこともあり、同じく囲碁好きで知られる山内元社長率いる任天堂へ直談判。持ち前のネゴシエーションスキルを発揮し見事、任天堂のふところへ入り込むことに成功したのだった。

ひょんなことから『テトリス』の存在を知ったロジャースは、さっそく米スペクトラム・ホロバイト社より日本におけるPC版のライセンスを取得。テンゲンからは家庭用ゲーム版のライセンスを取得することに成功した。
しかし、それは彼がニンテンドー・オブ・アメリカ(NOA)の荒川元社長に当時まだ発売前だったゲームボーイを見せてもらったときのことだった。彼はこの新しいハンドヘルドゲーム機の成功には『テトリス』が不可欠と力説。自らも『テトリス』の可能性を認めた荒川から、旧ソビエトへ飛んでハンドヘルドゲーム機版のライセンスを取得してくるよう依頼されるのだ。
さっそくモスクワに到着した彼を待っていたのは二人のライバル。ロバートスタインとケヴィン・マクスウェルである。交渉相手は旧ソビエトの謎の官僚組織EROLGが誇る鉄の男。ニコライ・ペリコフだ。果たして交渉の行方はいかに?
<複雑極まりないライセンスの流れ>
PCやソフトウェアを売りさばく英国商人ロバート・スタインもまたこの物語で大きなカギを握る人物だ。
そもそも『テトリス』を商業的に“発見”したのはこの男だった。未知のソフトウェアを求めて東欧諸国を巡っていた彼は、ハンガリーにてパジトノフ/ゲラシモフ版『テトリス』と出会う。天性の洞察眼でそれが売れることを確信したスタインはさっそくライセンス取得を試みるが、旧ソビエトの鉄のカーテンは厚く、数か月かけてパジトノフと2,3回テレックス(当時のファックスのようなもの)をかわすのが精一杯。
その後、そのやりとりは無効とされ、一旦はELORGのアレクサンドル・アレクセンコ(ペリコフの前任者)からIBM互換機版に関するライセンスを取得できたものの、家庭用ゲーム機やアーケードに関するライセンスはあやふやなまま、スタインは、英国メディア王・ロバート・マクスウェル・グループ傘下のミラーソフト社へサブライセンスを許諾してしまう。

すぐに、サブライセンスを受けたミラーソフト社の姉妹企業である米スペクトラム・ホロバイト社が『テトリス』をさらに改良し、ロシア風味を全面に押し出して販売することになった。これがのちに当局の逆鱗に触れることになることなど知る由もない。
ところがミラーソフトのジム・マッコノチーは何を思ったか、テトリスのサブライセンスを当時、しぶとく業界に君臨していたアタリゲームズへただ同然の取引で譲ってしまう。それに激怒したのがスペクトラム・ホロバイト社のフィル・アダムだった。この対立がサブライセンスの流れをより複雑化させてしまったのは言うまでもない。
一方、テトリスのサブライセンスを受けたアタリゲームズの中島元社長はさっそく自社メーカーであるテンゲンにNES版『テトリス』をつくらせ、アーケード版のライセンスはSEGAに発行。日本のファミコン版ライセンスをBPSに発行した。
しかしそんな動きを黙って見ているはずもいない男が一人いた。それは任天堂の山内元社長である。物語はここから佳境へ突入するのだった……
<疑問点と良点と不満点>
本書は「交渉術」や「ゲーム・オーバー」や「セガvs任天堂」と比べて、翻訳文特有のキザな言い回しや、やたら細かい情景描写などがないので読み進めやすい。また、登場人物が多いという点も相関図をつくりながら読むと、逆に新しい名前が出てくるのが楽しみになってくるのでお勧めだ。



※私オロチが今まで読んだゲーム系洋書
個人的に疑問に思った部分は2点。
まず、NOAの荒川實が大した説明もなくトップシークレットだったはずのゲームボーイのプロトタイプをロジャースに見せている点。あまりにもあっさりとしていて拍子抜けする。荒川に直感でも働いたというならその説明が欲しかったところ。
そしてもうひとつは終盤、ロジャースが2人のライバルと挑んだペリコフとの交渉の場で、ほぼ彼の独壇場だった点だ。これがフィクションなら一番盛り上がる場面にすると思うのだが、ドラ息子のケヴィンはともかく、スタインが意外とヘボで少々ガッカリである。
ライバルポジションだった2人が勝手に自滅しただけといった印象は否めず、この山場が盛り上がりに欠けたせいで、その後の任天堂とアタリとの訴訟合戦の描写が蛇足気味になってしまっている。(まあ、実際そうだったんだろうけど)

良点としては巻末にそれぞれの登場人物のその後が描かれていることが挙げられる。ノンフィクション本ならではのこの配慮はありがたい。中にはギョッとする最後を遂げた人物も……
ただ1点のみ不満があるとしたら、値段がちょっと高いところか。この値段だとよっぽどのテトリスファンでない限り買わないかもしれないが、文字通り世界を惑わせた名作パズルゲーム『テトリス』が如何にして創られ、発見され、世界へ広まって行ったのか。少しでも興味があるなら是非、手に取ってほしい良書であることは間違いない。
久しぶりにゲームボーイの『テトリス』でもするかな!
![]() | 個人的には NOAの荒川元社長が任天堂本を出してくれないかなって思った |
テトリス・エフェクト―世界を惑わせたゲーム
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ダン・アッカーマン
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