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UFOキャッチャーぬいぐるみ「非売品」の謎 秘められた運命のドラマ

 下の息子(5才)は、親戚がUFOキャッチャーで取ってきた「あらいぐまラスカル」のぬいぐるみが大のお気に入り。ミヤモトという名前をつけて大層かわいがっており、毎日のように人形遊びをしているのだ。

 私もたまにミヤモト役をやらされることがあるのだが、そんなとき、ふと疑問に思うことがある。それは「なぜ、あらいぐまがミヤモトという名前なのか」ということだ、というのは冗談で(笑)、なぜ景品のぬいぐるみは「非売品」なのかということである。一見、不思議でも何でもないことでも、調べてみたら意外なドラマに出会えるものだ。

 今からその謎を紐解いていこう……



<UFOキャッチャー誕生>

 クレーンゲーム自体の歴史は古い。しかしそれらは長らくゲーセンの奥にひっそりたたずむ地味な存在であった。そんなクレーンゲーム界に革命を起こしたのがSEGAの「UFOキャッチャー」である。

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 『UFOキャッチャー』がこの世に生まれる前、1970年代のクレーンゲーム機は、店の奥にこじんまりと置いてあり、中に入っている景品も、タバコやライター、更には下着(!)などでした。クレーンゲーム機は主に下を覗き込むタイプのもの。そこでセガは、“女性やお子さまが遊びやすい機械をつくろう!”“お店の入口に置いてもらえるようにしよう!"と開発。初代『UFOキャッチャー』(1985年)の誕生です。ピンク色でショーウインドウをイメージし、目線に景品がくる縦型にしました。
引用:セガ公式アカウント@SEGA_OFFICIAL


 SEGAは主に女性をターゲットに設定。景品を目線の高さにすることで、ウインドウショッピングを楽しむようにクレーンゲームを楽しんでもらおうと考えたのだ。さらに今までキャンディやラムネといった些末なものだった景品を“あるもの”に変えたことが最大のレボリューションとなったのは、皆さんもご存知の通り。

 そう、ぬいぐるみである。



<ぬいぐるみの自動販売機>

 きっかけは中山社長(当時)のアメリカ視察だった。アメリカのクレーンゲームはガラス張りで、ファンシーなぬいぐるみたちが並べらているではないか。彼は帰国後「アメリカには夢があった」と小形専務(当時)へ熱く語ったという。

 そこで、中山は「ぬいぐるみの自動販売機」をコンセプトに、新たな戦略を立てることにした。

 まず、景品をぬいぐるみにする。さらに漫画やアニメなど有名作品のキャラクター商品にして、定期的に作品を入れ替えることで顧客を飽きさせなくする。次に、七福神は7人いないと意味がないという独自の理論に基づき、バリエーション戦略を考案。同じ作品の中でも様々なキャラクタ・バリエーション、あるいは同じキャラクタでも様々なポーズ・バリエーションを提供することで、顧客のコレクション欲望へ訴求するのである。




 しかし、結果的に言うとこの計画は失敗だった……

 もっと正確に言うと実行すらされなかったのだ。なぜなら当時の景品法によって市価200円以下のものしか景品にできなかったからである。(※2018年現在は800円以下)

 ということは原価はそれよりも下回っていなければならず、当時のぬいぐるみ事情を考えると、どうしても実現できなかったのだった。したがって、UFOキャッチャー登場時の景品は、あいかわらず安価で仕入れることのできる駄菓子やカプセルトイが中心であり、即、クレーンゲームを人気機種に押し上げたという事実はなかったということだけは、指摘しておかなければなるまい。



<韓国でつかんだ好機>
 
 1988年に転機が訪れた――

 韓国へ出張中だった小形が、ソウル市内で大量のぬいぐるみをリヤカーに乗せて売っている婦人を見かけたのだ。それは小ぶりでUFOキャッチャーの景品にちょうどよいサイズに思えた。淡い期待をこめて値段を聞くと「1体500ウォンです」と返って来た。小形は「500円もするのか、そうだよな……」と落胆してホテルへ帰ったという。

 彼が勘違いに気付いたのは翌朝のことだった――
 当時のレートで1ウォンは約20銭だったのだ。ということは、ぬいぐるみ1体100円である。さっそく小形は、今度は通訳を連れてリヤカーのご婦人のもとへ足を運んだ。なんとかして、ぬいぐるみの仕入れ先を聞き出すためである。しかし彼女は頑として答えなかった。

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 さらに翌日は帰国予定日だった――
 どうしてもあきらめきれなかった小形は、飛行機に乗る前に再び、婦人の元へ馳せ参じるや否や、開口一番こう言ったという。おばちゃん、これ、全部買うから、どうか、仕入れ先を教えてくれないか?


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 数時間後――
 小形はご婦人から聞き出したぬいぐるみの生産工場へ向かっていた。飛行機はキャンセルだ。ひとまず確保したリヤカーいっぱいのぬいぐるみは国際便で本社へ送り、AM施設担当者にはそれでロケテストするように命じておいた。
 工場へ到着し、中へ案内されると、40名ほどの若い女工たちが一心不乱にミシンを操作し、ぬいぐるみを縫いつけている光景が目に飛び込んで来た。彼はさぞかし身震いしたに違いない。さっそく工場責任者と交渉を開始。結果として1体80円で工場の在庫をすべて買い付けることに成功したのだった。

 帰国後、ロケテストの結果を聞いた小形は「通常の4倍を売り上げた」という予想をはるかに上回る成果に驚くことになる。



<そして大成功へ>

 セガはぬいぐるみをゲームセンターへ直接販売するスタイルをとった。仲介業者をはさむことで市価が200円を越えるてしまうことを危惧したためである。また、このとき、景品はあえて市販しないことに決めたという。
 UFOキャッチャーのぬいぐるみが「非売品」なのは生まれつきだったのである。そこには「ここでしか手に入らない」というプレミアム感を演出する狙いと、もうひとつ、景品法への配慮もあったのだろう。

 やがて1990年にはSEGAブランド独自のぬいぐるみを生産することとなり、そのときも例の韓国の工場と契約をしたというから律儀な会社である。ちょうどこの頃、景品市価の上限が500円へ引き上げられるという追い風まで吹いていた。
 また、トイ事業部経由で、アンパンマンのキャラクタを景品化する権利を獲得。いよいよ当初、中山が思い描いていたキャラクター作戦に乗り出したSEGAの「UFOキャッチャー」は連日、黒山の人だかりができるほどの大盛況だったという。

アンパンマン NEWわくわくクレーンゲーム

 そして1991年――
 満を持して登場したのが「NEW UFOキャッチャー」だ。

 同機種が日本全国のゲームセンターへ爆発的に普及し、クレーンゲーム史上でも異例の大ヒットとなったのは言うまでもない。データによると、SEGAは1992年までにUFOキャッチャーのぬいぐるみの景品だけで、売り上げ300億円を達成しており、なんとこの数字は、一般ぬいぐるみの総売り上げを大きく上回ってしまったほどであった。1990年代のSEGAは、何気に「ぬいぐるみバブル」に沸いていたのである。


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 ゲームセンターにクレーンゲームが立ち並ぶ光景は今では当たり前となっている。なんならゲームセンターの花形といっても過言ではないだろう。そんなクレーンゲームの代表格である「UFOキャッチャー」のぬいぐるみに刻まれた「非売品」マークの背景には、実は、このような運命的な物語が秘められていたのだ。

 そのような歴史にこそ付加価値があるのではないか、なんて思いつつ、今日も私はミヤモト役をやらされるのであった。



orotima-ku1.pngミヤ、ミヤ!



参考サイト:クレーンゲームの歴史
参考サイト:セガ公式ツイッター
参考文献:ゲーム戦争(1996/大下英治/光文社)
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コメント

勉強になった
というか家庭用ゲーム機やるより儲かったんじゃないか。。。

ミヤモト...(笑)

うちのこも何故か初音ミクのことをゴメちゃんと呼んでたっけなぁ。
何故かは謎。

そのうちグンペイとかヤマウチとか仲間が増えるといいですね。

誤:なぜなら当時の景品法によって市価200円以下のものを景品にできなかったからである。

正:なぜなら当時の景品法によって市価200円以下のものしか景品にできなかったからである。

修正しました!
ミヤモトの由来ですが某メーカーは関係なくて、「ミヤミヤ」と鳴くところから来ていると思われます。ただ、「モト」はどこから来たのかは不明です(笑)

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