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謎のファミコンソフト「NESエージングカセット」の正体を暴け!! 検証編

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◆マジック跡と刻印◆

 愛知県某所――

 肌寒い2月の風に身震いしながら私オロチはNESエージングカセットの新たなオーナーとなったファミコン/NESコレクターしぇぼる氏宅へ取材訪問した。案内されたのは電球色に包まれた六畳ほどゲーム部屋。中心に置かれたソファーの前にテレビモニタが2台。奥には紫外線防止のためカバーがかけられたガラスケース。うしろには壁一面にファミコンソフトが並べられたカラフルな一角。その横にご自慢のNES棚が鎮座していた。全819本中215本。まだまだですよ。謙遜する彼だが私より一回りも若い青年だ。ファミコンが発売されたとき彼はまだこの世に生まれてなかった計算になる。(ちなみにファミコンカセットのほうはコンプリートまであと数十本だそうだ)
 そういえば最近、ツイッターでも若い世代のコレクターをよく見かけるようになった。この世界的なレトロゲーム争奪戦の時代にファミコンを集めようなんてやつはきっとバカだろう。だがコレクター道は最終的に「どれだけバカになれるか」という自分との戦いになるので、むしろ逸材だと思う。どうか頑張ってほしい。

 僭越ながら私はそんなエールの気持ちを込めてしぇぼる氏に手土産を渡すと、すぐさま持参した白い撮影ボックスを適当なスペースに設置して万全の受け入れ体制を整えた。さあ、準備OKだ。

 いよいよNESエージングカセットのお出ましである。


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 見た目はごく一般的なNESカートリッジだ。ラベルは紙製のような手触りである。印象的なのはプロテクトIC:3193という数字を塗りつぶしたマジックペンの跡であるが、これは印刷した紙ラベルの上から直に引かれており、同じように「3196」「CL」という刻印も直に押されているように見える。

 たとえば過去にメルカリ、ヤフオク、ebayに出品されていた他のNESエージングカセットと比較してみるとわかるのだが、、、


aging35.jpg
出典:メルカリ、ヤフオク、ebay

 よく見ると、マジック跡と刻印は筆跡や位置、カスレ具合が個体によって異なっているのである。つまりNESエージングカセットはひとつひとつがオンリーワンな存在なのだ。(ebayで出品されているものがすべて同じに見えるのは写真の使いまわしだろうか)




◆不可解な挙動◆

 さあ、ラベルについての細かい検証は後回しにして、まずは動作確認をしよう。いったいどんな内容が飛び出すことやら。胸躍らせながらNESエージングカセットをNES本体へセット。はやる気持ちを抑えつつ電源を入れてみたところ、、、

 ※動画でご覧ください



 驚いたことに『クルクルランド』のタイトル画面が現れたのだ。

 しかしその0.5秒後にはブラックアウトしてしまい、再びタイトル画面→ブラックアウトを繰り返すのみ。この不可解な挙動はいったいどういうことだろうか。私が(はからずもこのモニター画面のように)目を白黒させていると、しぇぼる氏は思わせぶりにNESエージングカセットをNES本体から引っこ抜きコンバータを装着。となりのモニターに設置してあったレトロフリークへ挿し込んだ。


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 するとレトロフリークはNESエージングカセットをファミコン版『クルクルランド』と認識したのである。


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 当然、ファミコン版『クルクルランド』もファミコン版『クルクルランド』と認識する。彼いわく『クルクルランド』はファミコン版もNES版も中身は同じなのだという。

 そもそもNES本体は国や地域によって様々なバージョンが存在し、本体及びカートリッジに仕込まれた10NESと呼ばれるCICロックアウトチップによってリージョン制限が施されている。カートリッジと本体のリージョンが一致しなければタイトル画面が一瞬だけ映ったあとすぐにブラックアウトしてしまうという挙動を繰り返すようになっているのだ。今回試した本体はNESの中でも最もポピュラーな北米版(アメリカ/カナダ)であったため、このNESエージングカセットは北米版ではなかったということである。

 だったら、なぜレトロフリークで動いたのかと不思議に思ったひとがいるかもしれないので説明しておくと、そもそもレトロフリーク本体にはCICが組み込まれていないのでリージョンの照合が行われないのである。CICはゲームが読み込まれるROMとは物理的に別物。したがってレトロフリークはNESエージングカセットのROMをそのまま認識することができたというわけだ。


nes2.jpg
 出典:Nintendo Entertainment System (Model NES-101) - Wikipedia

 ちなみに同じ理由でCICが廃止された後続機NES2も異なるリージョンのROMを読み込むことができるとのことである。




◆プロテクトIC番号の謎◆

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 以上をふまえて、改めてラベルに目を向けると合点がいった。ここに記載されている「プロテクトIC」というのはCICロックアウトチップのリージョン識別番号だったのだ。調べたところ、それは販売された地域によって以下のような数字になっていることがわかった。

3193 北米 アメリカ/カナダ
3194 不明
3195 PAL-B フランス/スペイン/ドイツ/スウェーデン等
3196 アジア/香港
3197 PAL-A イギリス/イタリア/オーストラリア

 任天堂は主にアジア地域において、あまりにもファミコンの海賊版が氾濫したため、海外向けファミコンであるNESを制作する際に海賊版防止システムとして10NESを開発したという経緯がある。やがてNESが様々な地域へ進出するようになると、それはリージョン制限システムとしても機能するようになったというわけだ。

 したがって今回しぇぼる氏が入手したブツは3196であり、実際に北米版NES本体ではリージョン制限されてしまったのでアジア/香港版のエージングカセットである可能性が限りなく高い(すべてのバージョンの本体で試してないので)という答えに至ることができた。ただし北米版を意味する3193がマジックで消されている理由は不明のままである。


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 ちなみにNES本体の見分け方は簡単で、前面パネルの赤文字ロゴの下に必ず何バージョンか記載されている。何も記載されていない場合は北米版(アメリカ/カナダ)ということになるのだ。見分ける機会があったら参考にして頂きたい。



◆謎のローマ字「CL」◆

 つづいて備考欄にある「CL」というローマ字について検証したい。しぇぼる氏の見解ではこれはコントローラ(Controller)のCLではないかとのこと。『クルクルランド』の操作はコントローラのすべてのボタンを満遍なくつかう(セレクト&スタート以外)。だから動作チェックに最適なのだと彼は力説した。しかしこの綴りでCLはちょっと無理があるんじゃないだろうか。『クルクルランド』の型番はファミコン版がHVC-CL、NES版がNES-CLなので、ここは普通に『クルクルランド』のCLのように思える。

 こういうときはやはり比較するのが一番であろう。現在、Web検索でわんさか出てくる「Test Cartridge」の中でこのNESエージングカセットに似たものがないか調査したところ、以下の3本が見つかった。さっそく比較検証のため画像を拝借させて頂きたい。


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1:しぇぼる氏のNESエージングカセット
2:NES完成品検査カセット(出典:nintendoage.com
3:NES検査用カセットサッカー(出典:www.wtol.com
4:NES TEST カセット(NES完成品検査カセット) (出典:picdeer.com

 備考欄を見ると1以外はCICロックアウトチップのリージョン識別番号(プロテクトIC)が記載されていることがわかる。興味深いのは2と4に見られる「改造済み」という文言だ。どんな改造が施されているのか気になるところである。そして1以外に「非売品」と記載されているところも見逃せない。ごく一部の関係者以外には存在すら知られてないものを非売品アピールする必要があったのだろうか。「社外秘」ならわかるのだが。(ちなみにファミコンの『コントローラテストカートリッジ』にも非売品の文字はみられる)

 それにしても4のラベルが逆さになっているところは面白い。NESはビデオデッキのようにカセットを横から挿し込む構造のため、本来であればこちらの向きのほうがラベルが正しく見えるのだ。製品版ではないので見栄えより使い勝手を選んで、あえて逆に張り付けたと解釈してみたい。何といっても〇に修という手書きの文字がいい味を出しているではないか。きっと誰かが修理したのだろう。まさかオサムさん専用カセットという意味ではあるまい。

 妄想が止まらないのでこれくらいにしておこう。なお「CL」の意味はわからなかった(結局は)。




◆ネジ穴とネジ山◆

 次はいよいよファミカセひっくり返しおじさんの本領発揮。裏面を見てみよう。

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 残念なことに裏ラベルは最初から貼ってないようだ。その代わりネジ穴に注目すると、このNESエージングカセットはネジ穴が3つでネジ山がマイナス型だということがわかる。


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 NESカセットの形状には大きくわけて3つのタイプが存在する。すなわち「ネジ穴5マイナス型」「ネジ穴3マイナス型」「ネジ穴3星型」である。調べてみるとそれぞれ初期タイプ、中期タイプ、後期タイプであり、後期タイプの数が圧倒的に多いことがわかった。


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 左から「ネジ穴5マイナス型」「ネジ穴3マイナス型」「ネジ穴3星型」である。

 ちなみにネジ穴5タイプとネジ穴3タイプは上からみたらすぐわかる。なぜならネジ穴3タイプは上部のネジ2つが無いかわりに前殻と後殻をツメで固定するようになっているため形状がまったく異なるからである。


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 このツメは日本のスーパーファミコンのカセットにも見られることを指摘しておきたい。そんなところからも任天堂がより良いカートリッジ形状を追及し、試行錯誤していたことがわかるのだ。

 さて、肝心の『クルクルランド』であるが、しぇぼる氏が言うのにはネジ穴5マイナス型タイプと、ネジ穴3マイナス型タイプが混在するらしい。おそらく再販版がネジ穴3タイプなのだろう。試しにググってみたところ、たまたま出てきたアジアンバージョンの『クルクルランド』はネジ穴5マイナス型タイプであり、NESエージングカセットとは一致しなかった。しかしながら、こうやって上から見た構図を並べたことでNESエージングカセットの上部ラベルが逆さまになっていることに気づいたのだ。これはラベルを刷る際に、見た目よりも効率を選んだ(わざわざ文字を180度ひっくり返して印刷するのは手間だから)結果であろう。この傾向はさきほどの4番のラベルを想起させるではないか。




◆端子と殻番号◆

 ところで皆さん、ついて来ているだろうか。少々心配だが続けよう。カセットの端子部分を覗いてみると前殻と後殻にそれぞれ番号が刻印されているのが見える。これは殻番号と呼ばれており、個体を識別する上では重要な数字なので、最後にチェックしておくことにしよう。

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 しぇぼる氏が入手したNESエージングカセットの殻番号は前殻がF-22、後殻がB-21であった。ちなみに「F」はFrontのF。「B」はBackのBのことである。

 一方、端子に注目するとNESカセットの端子には大きく分けて2タイプあることがわかった。これはセンターに抜け部分があるかどうかで見分けることができる。抜け部分がないタイプは初期型。抜け部分があるタイプは後期型だ。

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 NESエージングカセットの端子は抜け部分がない初期型であり、これは『クルクルランド』と一致した。

 以上で検証は終わりである。次回完結編では皆さんが一番知りたいであろう真贋についての現時点での結論と、ファミコン版は存在するのか、在庫数はどれくらいなのか、というような周辺の情報などをまとめるつもりである。



<謎のファミコンソフト「NESエージングカセット」の正体を暴け!!>
序章編
検証編
完結編
追記編



orotima-ku1.pngちなみに白い撮影ボックスはしぇぼる氏の家に忘れて帰ってしまいました。

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コメント

3万も出してクルクルランドかぁ・・、
コレクターさんも大変ですね。

リージョンの説明は解り易くて
大変勉強になりました。

オロちゃんニュース!!
orotima-ku1.png Youtubeチャンネル「オロチレーベル」を開設しました!!
 失われたファミコン文化遺産「ショップシールの世界」2020年6月26日発売

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