◆基板について◆ ファミコンカセットを分解して基板を取り出す行為を「殻割り」という。前回の検証で我々に殻割りを期待したひとは多かったんじゃないだろうか。しかし文字通りの意味で、
ファミコンカセットの分解には「殻が割れてしまう」というリスクがつきものであり一般的なコレクターはやりたがらないのだ。たとえ私がDr.ワイリーばりにジャンピング土下座してお願いしても
しぇぼる氏は了承してくれなかったであろう。
第一、そんな必要はない。実はNESエージングカセットが初出のとき3500円で複数購入したと思われる人物がすでに殻を割って基板を公開しているのである。(詳しくは
序章編を参照)
ありがたい。ありがたい。さっそく基板の検証を始めよう。
右の大きな黒いチップの上に「HVC-CL-0 PRG」とある。HVC-CLはファミコン版『クルクルランド』の型番であり、そのあとの数字はバージョンを表していると思われる。前述の通り同作はFC版もNES版も同じなので0なのではないだろうか。その次のローマ字だが、え、クルクルランドってRPGだったの?と思った人は早とちりさんだ。RPGでなくてPRG、これはプログラムという意味である。つまりこのチップには
『クルクルランド』のプログラムが入ってますよと書いてあるのだ。
一方、左の大きな黒いチップには「CHR」とあるが、これはキャラクターを意味すると思われる。したがってこちらのチップにはキャラクタのデータが入っているのだろう。
※拡大図 注目なのは左の小さい黒いチップ。これが
検証編のときに鼻血が出るくらいしつこく解説したCICロックアウトチップである。ご覧の通り物理的に別物になっているのがわかるだろう。少しわかりにくいがここに「3196A」という文字が見えないだろうか。この数字はラベルに記載されていたプロテクトICと一致した。つまり今回しぇぼる氏が入手したNESエージングカセットは
アジア/香港バージョンでほぼ間違いないということだ。
◆本物なの?偽物なの?◆ さて、序章編、検証編と長いことNESエージングソフトについて論じてきたわけだが、皆さんの心の声を代弁させてもらうなら
「で、結局、本物なの?偽物なの?」といったところであろう。先に言っておくと今回私は白黒はっきりさせるつもりはない。
※しぇぼる氏所有のNESエージングカセット しかしこのままで終わるつもりもない。ここはひとつ調査検証で判明した事実を真贋という名のモノサシで測って並べておくことにしよう。これをもって判断は皆さんにお任せしたい。
それでは、まず偽物が疑われる要素について並べてく。
◆偽物が疑われる要素◆・NES版のエージングカセットは今までまったく市場に出てこなかった
・存在が確認されている他機種のものにはデモが入っている
・それに対してこれはただの『クルクルランド』だった。
・内容が通常版と変わらないのでコピーが容易
・ラベルが紙なのでコピーが容易
・マジックや刻印もかんたんに偽造できる
・希少なアジア/香港バージョンだったとしても3万円なら余裕で儲かる
・ebayでマジック跡、刻印がまったく同じ商品が複数出ている
・NES版は前例がないものの、エージングカセット自体は前例がある
・Test Cartridgeの中にも似たようなものが存在した
・それらの要素を組み合わせればそれっぽい物がつくれる
・Test Cartridgeにはすでに偽物が大量に出回っている
・初期の複数本が売れたあと、2か月ほど期間が空いてまた複数出てきた
・工場で使っていたわりには妙に状態が良い
・ラベルに「非売品」の表示がない
・そもそもゲーム機にエージングが必要なのか?
「エージングとは、機械や電子機器などの出荷前に行われる稼動試験、または、使用開始前に行われる「慣らし運転」のこと
エージングを辞書で引くとこのような意味もあることがわかった。しかし今回、しぇぼる氏が入手したNESエージングカセットは他機種で存在が確認されているエージングカセットと違って、
デモ映像などが入っていないただの『クルクルランド』である。何分なのか何時間なの知らないが、はたして『クルクルランド』をプレイすることがエージングになるのかどうか。根本的な疑問が横たわる。
また、Test Cartridgeに関しては中身のプログラムがとっくにダンプされており、有志が作ったラベルの印刷用データすら存在するので、偽物がつくりたい放題の状態だ。悪意をもった者がエージングカセットにも触手を伸ばした可能性は0ではないだろう。
◆本物だと思われる要素◆・初登場時はたったの3500円だった
・出品者が関西方面(任天堂工場があったのは京都)
・アジア/香港版『クルクルランド』自体が希少ソフト
・エージングカセットの存在がマニアックすぎて需要が見込めない
・ひとつひとつがオンリーワン商品だった
・PAL版SNES/FCディスク/GBAでは存在が確認されている
うってかわって本物だと思われる要素は少ないが、なんといっても
初出はたったの3500円だったというインパクトが大きい。なぜならただでさえ希少性の高いアジア/香港版『クルクルランド』をebayなどで入手しようとすると、それだけでも3500円を余裕で超えてしまうため、その価格で売ったら儲からないどころか赤字なのだ。
それにエージングカセット自体は他機種で存在が確認されているため、いまだに確認されていない機種、FC、SFC(PAL版以外)、NES、GBなどに存在しない理由が思いつかない。これは私の見解だが、おそらく
それらのエージングカセットも存在はしたであろう。ただし常識的に考えて、それらのカセットは厳しい管理下に置かれていただろうから、流出することは滅多にないのである。それ以上のことは言えない、、、
◆調査中の珍事◆ 最後に、今回のWeb調査中に起こったハプニング?をご覧いただき締めとしたい。
それは私がメルカリ探索をしていたときのこと。非常に珍しいファミコンカセットが出現し、ほんの一瞬で消えるという出来事があったのだが、そのファミコンカセットがこともあろうか
今まさに鋭意調査中のブツだったのである。
こちら。

まさかのファミコン版エージングカセット!
ラベルの上部にバージョンや日付を書き込めるようになっているのはすでに見つかっているPAL版SNES用のものと同じであるが、よくみるとこれは
裏ラベルである。なぜ裏なんだ、、、
しかもFAMICOMのロゴに注目してもらいたい。

ご覧の通り、なぜかファミコンのロゴデザインが
スーパーファミコンのほうを採用してしまっているのである。ドンキーコングといえば1983年7月15日に発売されたファミコンのローンチタイトルではないか。その時代にすでにスーパーファミコンのロゴが存在したなら、それはそれで大事件だ。おそらくこのような「エージングカセット」と称する謎の物体が、これからちょくちょく出てくると予想される。偽物には十分注意して頂きたい。
以上でNESエージングカセットの検証を一段落させることにする。なお、エージングカセットについての情報はひきつづき募集中なのでよろしくお願いします。
<謎のファミコンソフト「NESエージングカセット」の正体を暴け!!>
・序章編
・検証編
・完結編
・追記編
|  | ひとまずの完結編 |
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