元ゲーメストのライターとして知られる鴫原盛之氏がYahoo!個人ニュースにアップした記事がレトロゲーム界隈をざわつかせている。
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「レトロゲーム本」発行ラッシュの影に潜む由々しき問題へ様々な反応 - Togetter
この問題については弊ブログでも2年前に「
Wikipediaによる「情報ロンダリング問題」について」という記事でほぼ同じ内容の提議をさせてもらったが、今回はさすがにYahoo!ニュース。多岐にわたる意見が寄せられているようなので、さっそく気になった記述や発言を見ていこう。
◆メーカー検閲の是非◆ まずはこの部分。鴫原さんは最近
クオリティの低いレトロゲーム本が量産される理由を以下のように述べた。
これらの書籍のほとんどは、各メーカーの監修を一切受けていないことが挙げられる。もっとも、メーカーの監修を受けた場合には、広報担当者が著者の解説やレビューの内容に干渉し、文章の修正や削除を指示するという、ゲーム業界特有の慣習に従わされるデメリットが生じるので、この点に関しては版元を一方的には責められない。
この点に関して、とある業界の方がツイッターで「ゲーム雑誌のメーカー検閲はいい習慣ではない」と指摘していたのが印象深い。まとめの中でも「報道の立場からは噴飯物」とバッサリ切られている。また
「メーカーに問い合わせたところで、わかる人間がいるのか」という問題もあるだろう。私はファミコンのことについて結構、色んな会社に問い合わせしているが、30年以上の前の当時を知っている社員がいまだに在籍しているなんてことなど、まずない。資料が残っていることすら稀なのだ。そもそもゲームメーカーに限っていえはほとんどの会社が消滅・合併などをしていて原形をとどめてなかったりする。
またその書籍の方針というのもある。先日、某雑誌に記事を依頼されたとき、編集さんに「メーカーに取材してもいいですか」と聞いたら「うちはアングラ路線なので」とやんわり止められたことがあった。
◆「若い」は理由になるか?◆ 続いてこちら。
ライターも編集者も、紙媒体が主流だった頃の世代とは入れ替わって若返り、レトロゲームが新作として世に出回っていた当時の事情を知る人が少なくなったのも大きな要因と言えるだろう。だからこそ、解説文に「高い評価を受けた」「酷評された」などと書いてあるのに、そう評した根拠が具体的に何も説明されていないという、にわかには信じがたい構成のまま出版される事態が起きてしまうと考えられる。
これもよく指摘されていることだ。
レトロゲーム界隈にはこの矛を「若いやつはレトロゲームを語るな」くらい鋭く磨いて振り回すひとたちが少なからずいて「老害」だの、「閉鎖的」だの言われてしまう原因にもなっていることを考えると、もちろん肌で感じた人間にしか書けない迫力のある文章ってのも確かに存在するのだけれども、レトロゲーム本の
クオリティが低い理由を「若いから」の一言で片づけているような指摘には一種の危うさがあるだろう。
文章の粒度については
「読者がどこまで求めているのか」によって変わると思われる。マニア向けなのか。ライト層向けなのか。マニア向けとて「一言コメントで構わない」という意見もあり一筋縄ではない。鴫原さんはどのレベルを想定しているのだろうか。
◆「ネット情報」側の人間◆ 続いてこちら。
事実関係をきちんと調べたうえで書き上げた原稿を、どういうわけか担当編集者が勝手に書き換え、しかもWikipediaなどのネット情報を元にして書き換えたので間違いだらけにされてしまった
こんなことあるのか。びっくりだ。
どちらかというと「ネットの情報」側の人間としては、Wikipediaはともかくファミコンのネタ!!はじゃんじゃん引用してねと言いたいところだが、こないだ一部の書籍で
当ブログの画像(私が撮影、加工したやつ)の無断使用を見つけてしまった。おいおい、使ってくれるのは嬉しいけどちゃんと断ってくれよ、、、
また、まとめの中に「ネットで目立ってる好き物を利用して即席で作ってる傾向」という辛辣な意見があった。たしかに最近、この手の書籍にその道の有名コレクターが協力する案件が増えたが、問題なのはそのような在野の士が参加することではなくて、限られたページ数、限られた文字数、限られた期間で書籍をつくりあげないといけない商業誌のビジネス的制約のほうではないだろうか。なぜなら一方では
「同人誌のほうが安定してる」なんていう正反対の意見もあるからだ。
もちろんそのような商業誌にも、ちゃんとやってるところはちゃんとやっているのは言うまでもない。
◆ネーミングセンス◆ そして、これ、、、
「完全ガイド」「コンプリート」などと標榜していながら、よく見ると1ページごとに特定のタイトルだけがクローズアップされ、それ以外の作品は小さくタイトル名と画面写真だけしか載っていない本もある。要するに、版元がライターに発注する原稿の量、すなわち経費や工程を節約したいからであるが、これのいったいどこが「完全ガイド」なのだろうか。
世の中に絶対に完璧なんてものなど存在しない。だからって不完全ガイドとか、非コンプリートガイドとかに改名すればいいという問題ではないだろう。ネーミングについては正直、私も商業誌とかかわっていく中で首をかしげる場面が多いのは確かだ。個人的にはマスコミが
一般的な容姿の女性だったら誰でも「美人〇〇」と修飾する陋習に近いと解釈して諦めている。多少の誇張や言葉の綾などにいちいちツッコんでられまい。
しかしおかげで鴫原さんがどのレベルを想定しているのかがわかった。「完全ガイド」「コンプリート」を標榜するなら完全でコンプリートなガイドをつくれという皮肉であったか。
◆声上げにくい問題◆ そして最後に危惧するのは、こういう声を上げる人間に対して建設的な反論をするならともかく、ただただ
足を引っ張りたいだけの人間が湧いてくる問題である。
今の世の中、SNS等で目立った告発などをすると
必ず「ブーメラン的な過去があるかどうか」を調べまくられてしまうという風潮があるのは皆さんもご存知の通りだ。今回は鴫原さんが元ゲーメストのライターということで「インド人を右に」と揶揄するコメントが見受けられた程度だったが、この「出る杭は打たれる」という社会心理はつくづく理解しがたい。確かに我々はレトロゲーマーだが、過去ばかり向く必要はないのではないか。レトロゲームにだって未来はあるはずなのだ。


※何かと話題になったレトロゲーム本たち この問題がもっと周知されて解決へ向かうことを願うばかりである。
|  | まずは関心をもってもらうのが第一歩 |
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