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マリオ世界の「死」について 【スーパーマリオをめぐる雑考】 3/4

とくにオチはない雑考シリーズ。民俗学/宗教/オカルトが大好物なオロチが「スーパーマリオ」の世界観について、とりとめないない話をする第3弾です。タイトルを少し変更しました。



◆ゲームは「死」の教科書◆

 ゲーム世界での「死」はデリケートな問題だ。私の息子たちはコントローラを握りながらときどき不穏な会話をする。そいつはお前が殺して。俺はあいつを殺すから、、、その都度、私は静かに諭すのだ。「倒す」と言いなさいと。思えばドラクエシリーズは決してモンスターを殺すと表現しなかった。その代わりではないが、FC版『ドラゴンクエスト2』(1987年)ではプレイヤーが全滅してしまった際に王様から「死んでしまうとは情けない」というシュールな説教をくらうのだ。同じ年にリリースされた『桃太郎伝説』では敵を倒した際に「こらしめた」と表現するなど死のイメージが徹底的に排除されていた。一方、ファイナルファンタジーシリーズは『3』までHP0の状態を「しぼう」と表現したが、『4』以降は戦闘不能と改められている。

 死に様でいうと『魔界村』のアーサーは敵に一度当たると裸になり、二度当たると骸骨になる。『ドラゴンズレア』の主人公も基本的に骸骨になって死ぬのだが杭に押しつぶされて圧死した場合のみ、なぜかナメクジになってしまう。『ゴルゴ13』に至っては生身の人間であるはずなのにミスしたら爆発する。ゲームは「死」について多くの示唆を与えてくれる教科書なのだ。

 では、今回のテーマであるスーパーマリオシリーズは「死」について、どのように表現して来たのだろう。

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 マリオのデビュー作である『ドンキーコング』(1981年/AC)の死に様は、その場で狂ったように回転したあと昏倒し、天使の輪のようなものが頭上に浮かびあがった。これは明らかにキリスト教の影響を受けた西洋的な記号表現である。ファミコン版『ワルキューレの冒険』はもっと露骨で、やられたら十字架のお墓になってしまったことが想起される。このような西洋的な「死」の演出は初期ゲームの世界ではよく見られた。

 しかし、その後のマリオ作品からは特定の宗教に影響を受けたような死に様は見られなくなっていく。



◆手前に落下するという演出◆

 マリオの名が冠された初のビデオゲーム『マリオブラザーズ』(1983年/AC)の場合、マリオは敵に当たるとビックリした表情で固まったあと、おもむろに正面を向いてその場で大きく飛び上がり、今までどんなに走ったり跳んだりしても決して足を踏み外さなかった手前側へ落下していくのだった。

marionosi01.jpg
 ※画面はファミコン版

 そのあとが面白い。マリオがそのまま画面下端まで落ちていったとき水しぶきが上がるのである。池なのか下水道なのか不明であるが、実はマリオブラザーズのステージの下には水面があったのだ。

 手前に落下するという死に様は『ドンキーコングJR.』(1982年/AC、)、『バルーンファイト』(1984年/AC)など他の任天堂作品にも見らる。興味深いことに両作品の画面最下部は、あからさまな水面だったのだ。(『JR.』は1面のみ)

marionosi02.jpg
 ※画面はファミコン版

 もしかしたら『マリオブラザーズ』のマリオが落ちて水しぶきを上げる演出は、『ドンキーコングJR.』の文法なのかもしれない。

 ちなみに同じく任天堂作品『アイスクライマー』(1985年/FC)の場合、ミスしたら一旦雪の結晶になってから、やはり画面の手前へ回転しながら落ちていった。どうやら任天堂作品には「画面の手前に落ちる=死(ミス)」という記号的共通パターンがあるようだ。



◆マリオは「落とし合い」なのか◆

 任天堂がファミコンへ移植したことで知られる『スパルタンX』(1984年/AC)でも、手前に落下するという死に様が見られる。しかしこの作品の場合、ステージが楼閣の縁側だったことに注目したい。この場所だと「やられたら落ちる」という動作に必然性があるのだ。つまり極端な言い方をすればこのゲームは最初から「落とし合い」なのである。

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 そういう意味では『バルーンファイト』も落とし合いゲームなので、この演出に違和感がなかった。しかしマリオシリーズはとくに落とし合いゲームという内容でないにもかかわらず、その後も『スーパーマリオブラザーズ』『ランド』『ワールド』『NEW』等、いわゆる2Dマリオにおいて、執拗なまでにこの「死に様」演出を貫き通しつづけるのだった。

 水しぶきこそ上げなくなったものの、そこには一体どういいう狙いがあるのだろう。

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 ※各2Dマリオの死に様

 この事実からマリオは極端に幅が狭い世界を冒険していると解釈されることもあるのだが、それでは城ステージや海ステージの説明がつかないだろう。つまり2Dのマリオはミスするとわざわざ第3次元の壁を突破してまで画面の手前に落ちてみせているのだ。この少々芝居じみたメタ演出から、あえて意図を汲み取るならばそれは「死」よりも「舞台からの退場」という意味合いの強調であろう。

 一番わかりやすいのは『3』である。同作品はオープニングで絞り緞帳(赤いカーテン)が上がり、障害物がボルトで止められ、吊るされ、うしろに影が映るなど舞台のセットを思わせ、ゴールは真っ暗で舞台裏を思わせる。

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 明らかに『3』は舞台演劇を意識したゲームデザインとなっているのだ。つまりマリオシリーズは、あえてミスしたときなどに舞台演劇を思わせるメタ演出をすることによって「死」のイメージを緩和させていたのである。さしずめ彼は大袈裟に舞台からはけていく喜劇役者といったところか。



◆突然のリアル路線&回帰◆

 そんなマリオの死に様に革命が起きたのは『スーパーマリオ64』(1996年)だった。

 同作品でマリオは突然リアルな死に様を見せるようになったのである。しかも『64』での彼の死に様には無数のパターンが存在し、ファンから「黒い任天堂」と揶揄されるほどであった。中でも口を押さえてもだえ苦しみながら息絶える溺死はトラウマレベルである。

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 ※64で溺死するマリオ

 このリアル路線の死に様はその後の3Dマリオ作品『サンシャイン』『ギャラクシー』などに引き継がれていった。

 スーパーマリオシリーズもドラゴンボールのようにリアル路線へ変更したということだろうか。もしかしたらそれは、ただ単に3Dになったことで表現の幅が広がっただけなのかもしれない。どっちみちマリオシリーズは3DS版『3Dランド』(2011年)及びWiiU版『3Dワールド』(2013年)でひとつの答えに到達することになるのだから、、、

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 ※『3Dランド』でのマリオの死に様(ゲームオーバー)

 これらの作品は3Dマリオの系譜に位置づけられるシリーズであるのにかかわらず、ミスをすると大袈裟に飛び上がったあと画面の外へ落ちていくという「2Dマリオの死に様」を採用しているのである。さらにゲームオーバーのときは決定的だ。最終的にマリオは何もない空間に落ちてきて「GAME OVER」の文字が浮かび上がると同時に両手を上げるポーズをするのである。つまり彼は「死んだ」のではなく「退場」なのだということが、ここに明確に示されたのだった。

 もっと言えば、彼は3D世界でさらに違う軸へ落ちていくのだから第4次元の壁すら突破したことになる。これは地味に画期的なことだ。なお、この「3Dマリオなのにミスしたら違う軸へ落ちる」という演出はNS版『オデッセイ』(2017年)にも引き継がれている。

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 ※『オデッセイ』での死に様

 参照動画:EVOLUTION OF MARIO DEATHS & GAME OVER SCREENS + Super Mario Odyssey (1983-2017 - NES to Switch) - YouTube



orotima-ku1.png記事はオチないっていうね



【スーパーマリオをめぐる雑考】 全4回
1.タヌキスーツの異質性
2.なぜマリオの敵は動物なのか
3.マリオ世界の「死」について
4.テレサは何のお化けなのか
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コメント

ワルキューレのなくなり方が音楽的に一番合ってると思う。
マリオ64のなくなり方今思うとリアルで怖い。

マリオの死に革命が起きたのは、じつは64よりGB「ドンキーコング」が先です。
攻略本のインタビューでも宮本茂さんがその多様な死に方に言及していました。
GBのドンキーコングの完成時、宮本さんはすでに3Dゲームに着手していたようで
その死に方が64のマリオにも受け継がれたといえるかもしれません。

貴重な情報ありがとうございます! ゲームボーイ版ドンキーコングですか。盲点でした。さっそく手に入れて確かめたいと思います。というか勢いでメルカリでゲットしちゃいました。ところでその攻略本のインタビュー記事も是非見てみたいのですが、どこのどういう本でしたか?

ゲームボーイ?スーパーファミコンのじゃなくて?

スーパーファミコンに「ドンキーコング」はありませんよ。
なんか世代によってはドンキーコングと言えばゴリラが主役のやつという認識みたいですが、
スーパードンキーコングを略してドンキーとか言ってるうちにスーパーが行方不明になったのかしらん

攻略本は3種類ぐらいあったんですが、たぶん公式のやつですよね。

ドンキーコング 任天堂公式ガイドブック(小学館)で間違いないと思います。
メルカリに出品されている画像に、宮本氏のインタビュー記事が写っていました。
アマゾン、駿河屋、メルカリ、ヤフオクいずれにもありました。

GBのドンキーってあのドンキー父のことか(リメイクされたあの樽投げの)
漫画では初代ドンキー(アーケード&FC時代)がスーパードンキーコング(SFC時代)の父って言ってたし

GB版ドンキーコングと言えば、最初のアーケード版ドンキーコングの直接の続編です。なおこのあとはGBA版のマリオvsドンキーコングに続きます。
マリオのアクションとして、通常のジャンプに加えバックフリップや逆立ち、大車輪などの体操系のアクションをする点でいえばマリオ64以降の3Dマリオにつながる重要なソフトです。

※9103
GBのドンキーコングは初代のドンキーコングで、彼はスーパードンキーコングではクランキーコングという名で登場しています。2代目ドンキーコング(スーパードンキーコングの主人公)はクランキーコング(初代ドンキーコング)の孫です。

すでに他の方が答えていますが、インタビューは公式ガイドブック(小学館)に掲載されています。

はっくさんが仰られているように、体操系のアクションもGB「ドンキーコング」が発祥です。
この新アクションについても、同攻略本で宮本茂さんが思想をけっこう語られていますね。
ポリーンやピーチとの三角関係(笑)についても言及しているので、なにげに資料価値はあるインタビューかと。

この時点でマリオ64を手がけていたことは、宮本茂さんのプロフィールが「趣味:64bitゲームづくり」となっていることから分かります。

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