タヌキスーツの異質性 【スーパーマリオをめぐる雑考】 1/4


とくにオチのない雑考シリーズ。今回は、民俗学/宗教/オカルトが大好物なオロチが「スーパーマリオ」の世界観について、とりとめないない話をします。全4回(完結)。



◆懲罰的な変身譚◆

 マリオシリーズの行く末を決定づけた作品といえば『スーパーマリオブラザーズ3』である。その中でひときわ強烈な違和感を放つ存在があった。タヌキスーツだ。それは説明書に記載された物語に次のような一文があったからである。

コクッパたちが魔法の杖を盗みだし、
王様を動物の姿に変えてしまいました。(要約)
ファミコン版の説明書より

 人間が動物にされることが懲罰的に描かれる物語はグリム童話「かえるの王さま」「兄と妹」や、ヨーロッパの古い伝承に多く見られる変身譚の類型だ。そこには動物の神性(アニミズム)を否定するキリスト教の影響を濃密に見出すことができるのである。

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 もちろん我が国にも多くの変身譚が伝わっている。しかし日本の場合、変身する主体がそもそも動物であることが多いのだ。「鶴の恩返し」「狐の女房」「うぐいす長者」などの昔話は動物が人間に化ける物語であり、しかもそれは(一時的ではあるものの)人間に恩恵をもたらす存在と描かれるのである。一番わかりやすいのは「鶴の恩返し」であろう。鶴の彼女は懲罰で仕方なく鶴になったわけでも、嫌々人間と結婚するわけでもないのだ。世界基準でいうとむしろそれがスタンダードであり、ヨーロッパだけが極端に特定の宗教の影響を受けているのである。

 つまりこのマリオの物語は極めてキリスト教的だと指摘せざるを得ない。にも関わらず、そこへ唐突に投げ込まれたのがタヌキスーツだったというわけだ。



◆デタラメな宗教観◆

 タヌキスーツの最大の特徴は「お地蔵さん」に化けられること。お地蔵さんとは仏教の中でも絶大な人気をほこる地蔵菩薩であり、その容姿から「子どもを守る仏様」として信仰されてきた。「タヌキ=化ける」という文化も日本特有のものだ。「宝満山のタヌキ」をはじめ我が国にはタヌキがお地蔵さんに化ける民話がたくさん語りつがれている。

 そもそも「お地蔵さん=無敵」という公式が成立するのは、それがどこにでもある存在という共通認識がなければならない。はたして明らかに西洋文明の影響を受けているマリオの世界でそんな共通認識など存在するのだろうか。驚くべきことにその答えはクリア後に示されていたのだ。『3』のエンディングで敵であるはずのノコノコが手を合わせている姿が確認できるのである。

mariotanuki04.jpg

 しかしながらマリオシリーズにおいてこのような特定の宗教色の強い、というか特定の宗教の崇拝対象そのものがモチーフとして登場するのは極めて異例な上、それが西洋的なマリオの世界観の中で唐突に、否応なく異質な存在としてモニター画面に鎮座するのだ。違和感を抱くなと言うほうが酷であろう。

 これが意図したものなのかそうでないかは関係ない。むしろこの無頓着さは、作り手が無意識のうちに影響を受けてきたものが物語のディテールとして表出されたと解釈したほうがしっくりくる。しかもそれは作品がキリスト教など特定の宗教に寄り過ぎないためのバランス装置としてうまく機能しているようにすら思えるのである。マリオが世界中でヒットしている要因は案外そんなことなのかもしれない。



◆通過儀礼としてのタヌキスーツ◆

 そんなマリオの動物変身能力は、今では世界中に受け入れられているが、過去にはタヌキスーツが某動物愛護団体から抗議を受けたことがあった()。

 それは概ね冷笑的に受け止められたB級ニュースの類ではあったものの、あえて「マリオシリーズの通過儀礼のようなものだった」と捉えると、非常にアイロニーで示唆に富んだエピソードとなる。なぜなら実際に動物の皮をかぶるという通過儀礼はネイティブアメリカンの部族などに広く見られる行為だったからだ。その多くは崇拝する動物になりきることによって、その力を得ようとする儀式だった(まるでマリオのように!)。

 しかも歴史的にみると彼らのそのような儀式は、たいてい入植した西洋人の手によって「野蛮だ」と見なされ、ことごとく廃止に追い込まれているのである。歴史は繰り返すというやつだ。なんとも皮肉が効いているではないか、、、



 実は日本も例外ではなく古い伝承によると、山形県の西川地域では、熊狩りに初めて参加した若者に、まず最初に解体した熊の皮をかぶせるという儀式が行われていたのだという。(出典:「性食考」赤坂憲雄

 そう考えるとタヌキスーツは非常にアミニズム的な存在であり、西洋の理解が追いつかなかったのも頷けるのである。



orotima-ku1.pngこういう話あと3回するよ!



【スーパーマリオをめぐる雑考】 全4回
1.タヌキスーツの異質性
2.なぜマリオの敵は動物なのか
3.マリオ世界の「死」について
4.テレサは何のお化けなのか

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結構面白い記事なのに一瞬で消えたの何でだろうと思ってたけど分割公開するのね
9076. [ 2019/09/22 02:22 ] [ 編集 ]
確か日本のドラクエも海外のドラクエと比べたら一部違うね
9077. [ 2019/09/22 08:02 ] [ 編集 ]
9076さん
書いてる途中で挙げてしまったかもしれません

9077さん
十字架が修正されたりしています。今後ドラクエのことにも少し触れるかもです

9078. [ 2019/09/22 09:13 ] [ 編集 ]
僧にカエルに変身させられるって、話は日本にある
9080. [ 2019/09/22 09:17 ] [ 編集 ]
日本の変身譚にも西洋の変身譚にも例外はあるみたいですね。
それはどんなお話ですか?
9081. [ 2019/09/22 11:50 ] [ 編集 ]
動物の姿になるのは、おとぎ話に影響を受けているだけで、懲罰的なものでは無いような気もします。
「醜い何とかの姿に。。。」とかでもないですし。
魔界村の爺さんになっちゃうほうが懲罰的ですよね。
まぁ、ジャンプ出来る元気な爺さんですが。。。
9082. [ 2019/09/22 15:43 ] [ 編集 ]
ドラゴンズレアもナメクジになってたね
9083. [ 2019/09/22 18:04 ] [ 編集 ]
9082さん
懲罰的という言葉が適切でなかったかもしれません。いずれにしてもマリオの世界が西洋的であることには変わりないように思います。

9083さん
たしかに。ナメクジになりましたね。あれも何か元ネタがあるのでしょうか^_^
9084. [ 2019/09/22 22:18 ] [ 編集 ]
蛙飛び行事って話

ttp://wakuwaku-nara.com/ibent/yoshinokaerutobi/
9086. [ 2019/09/23 20:13 ] [ 編集 ]
素晴らしい!カエルにするのは男を助けるためだったとは。非常に興味深い故事ですね。ありがとうございます。
9087. [ 2019/09/23 20:33 ] [ 編集 ]
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