なぜ『あつ森』には動物が出てこないのか? 冷蔵庫が禁忌(タブー)になった理由をめぐる雑考

2020年06月13日20:05  ネタ・コラム 写真あり

◆羞恥心とアニマリティ◆

 『あつまれ どうぶつの森』(以下:あつ森)が世界中で記録的ヒットを飛ばしている。巣ごもり特需というやつだ。かくいう私もご多分にもれず家族で無人島生活を楽しんでいるミーハーのひとりである。しかもシリーズに手を出すのはこれが初めてのズブズブの素人だ。まだ初めて1ヶ月も経っていないのだが、そんな私でもいっちょ前に気になることがある。いや、素人だからこそ気になるのかもしれない。

 それはこのゲームに動物が出てこないことだ。



 こいつは何を言ってるんだと思っただろうか(笑)。残念ながら本気である。そもそも『あつ森』には以下のようなたくさんの動物キャラクターが登場する。(分類は適当)

哺乳類 雑食性:タヌキ、キツネ、ハリネズミ、スカンク、ビーバー、イヌ、ネコ、クマ、コグマ、ゴリラ、サル、カバ、ネズミ、ブタ 草食性:ナマケモノ、ウサギ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、リス、アルパカ、カンガルー、コアラ、シカ、ゾウ、サイ、ハムスター 肉食性:アリクイ、オオカミ、トラ、ライオン
鳥類 フクロウ、ドードー、カモメ、ペンギン、アヒル、ダチョウ、トリ、ニワトリ、ワシ
爬虫類 ワニ カメレオン
両生類 カエル
頭足類 タコ
『あつ森』動物分類図(オロチ作)

 そんなことは知っているのだ。でも彼ら(彼女ら)は不自然なほど自らのアニマリティ(動物としての個性)を語らないではないか。たとえば私はあるとき島民のひとりストローにハエをプレゼントしたことがあった。カエルの彼ならきっと喜んでくれると思ったのだ。「いやあ、大好物なんすよ」くらい言ってくれるかなと期待したのに、、、

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 ハエをもらった彼が何か特別な反応を示すことはなかったのである。それだけではない。「ウシの彼にはあえて雑草をプレゼントしよう」とか、「ブタの彼女にパールのロングドレスをあげたらどういう反応するかな」とか、私はついつい島民のアニマリティを意識したプレゼントを考え、渡してしまうのだ。そのたびに彼らは私の思惑をいっさいスルーしてくれる。あえて語弊のある表現をさせてもらえば「アニマリティは恥部」と言わんばかりに。まるで彼らにとってのアニマリティがセクシャリティであるかのような振る舞いをしてくれるのである。これはいったいどういうことだろう、、、



◆冷蔵庫の禁忌(タブー)◆

 本作に動物が出て来ないと思った理由はもうひとつある。

 たとえばディズニーの世界にはプルートという名の犬が出てくる。皆さんご存知、ミッキーマウスのペットである。彼は世にも珍しいネズミに飼われている犬なのだ。おまけにディズニーにはちゃんと犬の擬人化キャラクター・グーフィーがいるところが滑稽ですらある。あるいはアンパンマンの世界にはチーズという犬が出てくる。彼はジャムおじさんのパン工場に住みついてしまった犬なのだ。探せば他にも例はあるだろう。動物が擬人化された世界にガチめの"動物"が出てくる話など珍しくとも何ともない。にも関わらず、なぜ『あつ森』には登場しないのか。そこには秘められた力学が働いているはずなのだ。

 なぜそう思ったのか。きっかけは冷蔵庫だ。何かの拍子に冷蔵庫を手に入れた私は大喜びで部屋に設置したのだ。この中に食材とか貯蔵できるのかな。料理とかつくれるのかな。期待をふくらませながら私は扉を開け放ったのだ。するとどうだろう、、、

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 れいぞうこで きがえようかな、、、だと、、、!?

 何を寝ぼけたこと言ってやがる。冷蔵庫でキンキンに冷やしたTシャツでも着るつもりか。意味がわからん。どういうわけか『あつ森』の世界では冷蔵庫がクローゼットの機能を果たしていたのだ。そのとき私の心の奥底に違和感のようなものが芽生えたのは言うまでもない。より正確に換言するならば、それは図らずもこの森の禁忌(タブー)に触れてしまったかのような、知的好奇心をくすぐるゾワゾワした感覚だったのだよ!

 決定打となったのは「しかのオブジェ」だった。成金の家によく飾ってある鹿の首だ。このアイテムをゲットしたとき私の心臓はコクンと高鳴ったのだ。何とも言えない背徳の香りがしたからである。私はさっそく期待と不安を抱きながらそのDIYレシピを開いてみた。するとどうだろう、、、

sika.png

 材料:木材だと?
 つくりものじゃねえかっ!!!

 私はそれが剥製じゃなかったことに落胆したのだ。しかしおかげで違和感の輪郭が見えてきた。もしかしたらこの世界は「どうぶつの森」を名乗っていながら動物が排除されてるのかもしれない。島民のアニマリティをはじめ、ブルートやチーズのようなガチめの動物や、それを象(かたど)ったアイテムすら、何らかの理由で制限されているのかもしれない。私はそのような仮説を立てたのだ。そしたらこの仮説は冷蔵庫がクローゼットになっている謎にも答えてくれた。冷蔵庫で冷やすものといえばビールかな。やさいかな。

 やさいじゃないよ。お肉だよ!



◆オミットされた肉食文化◆

 18世紀に冷蔵庫が発明されて以降、人類は冷蔵庫で肉を冷やしてきた。つまりこの世界の創造主がどうしても隠したかったもの。それは肉だったのである。そりゃそうだ。みんなが仲良く暮らしているどうぶつの森にどうぶつの肉があったら一大事だ。しかも冷蔵庫から出てくるなんて、猟奇事件以外の何物でもない。それはともすれば共食い(カニバリズム)すら連想させる所業である。カニバリズムいうたら、君、直球の禁忌(タブー)やないかい。つまり『あつ森』の創造主は本来、弱肉強食のはずの動物の世界にファンタジーの仮面をかぶせる手段として食肉文化すらオミットしたのかッッ!?

 さっそく調べてみると私の仮説を裏付けるような結果以上の結果が歴然とあらわれたのだった。なんと『あつ森』の世界には食肉文化どころか食べ物(果物以外)のレパートリー自体が恐ろしく少ないことがわかったのである。以下に列挙してみよう。

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 左上からウェディングケーキ、ポップアップトースター、ポップコーンマシーン、炊飯器、せいろ、ちゅうかテーブル、ちょうみりょういれ、すいはんき(中に米が入っている)、下段へいってふうせんガム、こはだずし(ワンピース)、かきごおりき、かまどのキッチン、おはなみセット、バーベキューグリル、くんせいマシン、下段へいってオーブンつきコンロ、システムキッチン、おかしのじはんき、せいろ、ははのてづくりケーキ、いしがま。

 ご覧頂けただろうか。全4500種類以上あるといわれる森のアイテムの中でたったこれだけ。わずか20種類足らずしか見つからなかったのである。しかも大半は食べ物ですらない。厳密な食べ物アイテムといえるものは「ふうせんガム」と「ケーキ」2種のみである。あまりにも少ない。やたら筋肉鍛えてるやつが多いくせに、タンパク質はどこ行ったんだ!

 しかしどれほど完璧に見える世界にも、必ず綻(ほころ)びはあるものだ。以下の3つのアイテムに注目してみよう。

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 ちゅうかテーブルは思わずニヤリである。このテーブルの上に乗っている中華料理を注意深く見ていくと、フカヒレスープ、エビチリ、春巻き、そして小籠包(ショウロンポウ)らしきものが見えるではないか。小籠包の中には絶対にひき肉が入ってるはず。ちゅうかテーブルをちゅうかテーブルたらしめる手段として安易に中華料理を乗せてしまったな。隠しきれてないぞ。食肉文化。次に、おはなみセットには寿司、三色団子、サンドイッチの姿が確認できる。そこにはハムが挟まっているような淡いピンク色が見えるのだ。隠しきれてないぞ。食肉文化。そして最後は問題のバーベキューグリルである。盛大にやっちまってる。バーベキューはカリブ海の先住民タイノ族が木を組んで動物を丸焼きにした野外料理に由来するゴリゴリの食肉文化アイテムやないかい。もはや隠してすらいない。串に刺さっているのは左からトウモロコシ、ピーマン、肉だろうか、、、シャケにも見えるが、、、

 ただし、これらのアイテムはあくまでも「ちゅうかテーブル」と「おはなみセット」と「バーベキューグリル」であり肉そのものではない。つまり純粋なアイテムとしての肉は今のところ存在しなかったのだ。しかも、肉のように見えるものは別の食材かもしれない。したがって肉と断定できるものも存在しないのである。漏れがあるかもしれないが、極端に少ないことには変わりないだろう。

 ※過去のシリーズ(ポケ森)においては「ターキー」「カツどん」「まんがにく」といった肉料理がアイテムとして存在したらしいが、今回の考察にはあまり関係ないので考慮しない



◆島民=知能を与えられたペット説◆

 一方、動物系アイテムはどうだろうか。調べたところ予想通り動物そのものアイテムは存在しなかったばかりか、動物を象ったアイテムや動物を連想させるアイテムすら数えるほどしか見つからなかったのである。

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 シカのオブジェ、トナカイのイルミネーション、めすのフラミンゴ、おすのフラミンゴ、マタドールなふく、一段さがってトラのTシャツワンピ、ペットのごはん、ペットのベッド、いぬごや。

 この中でフラミンゴ(オス/メス)だけは盛大にやっちまった感がある。剥製ではなくプラスチック製の模型だとは思うがガッツリ動物だ。しかもつがいである。フラミンゴのつがいの置物には何か文化的な意味があるのだろうか。最大勢力の哺乳類ではなかったのが唯一の救いか。トラのTシャツもやっちまってるが、これは柄なので微妙なところ。こはだずしのワンピースと同じブランドの可能性が高い。

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 問題なのは“ガチの動物”の存在を匂わせるオーパーツであるペット用品シリーズだ。ゾクゾクするね。ペット自体は見当たらないのにペット用品だけはあるなんて。このねじれの正体は何だろう。考えていた私は少し馬鹿げたことを想起してしまった。かつて18世紀の社会学者オーギュスト・コントは動物を3種類にわけ、以下のような怖ろしい提案をしていたのだ。

 1:人類に害をなす動物 → 絶滅させる
 2:食料となる動物 → 動物性を排除して食肉としてのみ培養する
 3:愛玩・介助となる動物 →  知能を向上させ人間に近づける

 当然、このような倫理の欠如した提案が受け入れられることはなかったのだが、『あつ森』世界に害獣(≠害虫)がいない理由。ペットがいた痕跡はあるのにペット自体はいない理由。知能の高い動物がいる理由。見事にすべて説明しているようで気味が悪い。ついでに島民たちの容姿がことごとく愛玩的な理由も説明できてしまっているのだ。もしかしたら島民たちは人類から知能を与えられたペットの未来の姿なのかもしれない、、、

 2XXX年――
 何度かの大戦を経て、人類の倫理観が著しく欠如してしまった時代に、皮肉にも遺伝子工学の発展が頂点を極めた。害獣たちは容赦なく絶滅させられ、食用動物は食肉としてだけ培養されるようになり、愛玩・介助動物には知能が与えられ、彼らは人型アニマロイドへと進化させられた。月日は流れ、高度に知能が発達した人型アニマロイドたちには人権が与えられ、彼らは自らのアニマリティを野蛮なものと考えるようになった。両者は極めて平和的に共存・共生していたが、万が一、起源の秘密を知られたとき、人型アニマロイドたちが反乱を起こしかねないと考えた世界政府は、文化や宗教の形をとってわずかに残っていた原始動物の伝承や偶像崇拝を禁止。食肉文化も大幅に制限した。中には、政府に反発し全裸で過ごすことを信念とする原理主義者もいたが、やがて彼らは歴史の闇へ消え去っていった。さらに月日は流れ、誰一人として人類と人型アニマロイドの過去の関係を知るものがいなくなった時代のある日、とある少年が無人島で、不思議なピンクの鳥の置物を発見する、、、

 なんて裏設定があったりしてね(笑)



◆線引き論◆

 我ながら妄想が過ぎるので、ここらであの厄介なものたちに言及しておこう。今更であるが魚と虫である。

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 実は『あつ森』の世界はなぜか魚や虫だけはリアル路線なのだ。精緻な図鑑や模型まで存在する。また、基本的に魚や虫は「鑑賞する」か「売る」しか選択肢がなく、食べることはできないのだが、たとえばフグを釣ったとき自キャラが「てっちり」という言葉を口にするなど、明らかに魚食文化については寛大なのだ。

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 にもかかわらず、魚介類のカテゴリーである頭足類のタコが擬人化キャラクターの仲間入りを果たしているなど、ギリギリの世界観をぶっこんで来るところが危なっかしい。はたして、なぜ魚は食べてよくて、動物は食べたらダメなのか、、、なぜオタマジャクシは釣れるのにタコは釣れないのか、、、誠に遺憾ながら、その線引き論を考察するには、生物学、歴史学、宗教学、あまりにも煩雑な迂回をしなければならない。したがって、ここはひとつ、断腸の思いで留保させてもらおうと思うのだ。

 あえて線引き論はスルー!



◆誰も傷つかない世界◆

 ということで、最後にもう少し違う角度から、この世界がなぜ「食」のイメージを隠蔽(いんぺい)しようとするのかという力学について深堀りしてみたい。2007年発行の書籍「子どもの本と〈食〉」にこんな一節がある。

 子どもの本における「食」は、おとなの文学における「性」の代替であるといわれることが多い
引用:子どもの本と〈食〉物語の新しい食べ方

 実はこのような「食」と「性」のただならぬ関係についての指摘は、民話・民俗学の世界ではとくに目新しいものではない。かの偉大な人類学者レヴィ=ストロースは著書の中で「世界のすべての言語が性交を摂食行動になぞらえている」と述べており、未開の民族の言語の中には「食」と「性」にまったく同じ言葉があてがわれているケースも少なくないのだ。生理学からの見地では、人間が「食」と「性」を無意識のうちに結びつけてしまう理由を、食欲中枢と性欲中枢が視床下部にとなり合っているためと説明する。浮気のことをつまみ食いと言ったり、魅力的な異性を見て美味しそうと思ったりするのは、ある意味正常なのだ。

 ただし、問題なのはこの森が「動物の世界」であることで、とりわけ肉食動物にとっての「美味しそう」とはそのままの意味になってしまう。ここに、この世界ならではの倒錯した磁場が発生するのだ。たとえば、我々が食事の前に唱える「いただきます」という言葉には「命をいただく=ころす」という意味が込められているのはご存知の通り。この言葉は「食」のうちに根源的な「暴力」が潜んでいることを我々に教えてくれるのである。つまり「食」とは「性」でもあり「暴力」でもあるということだ。それはまるで『あつまれ どうぶつの森』の世界観とは対極の位置にある言葉たちではなかったのか?



 いみじくも本来の動物の世界は「食」「性」「暴力」に溢れている。溢れているからこそ創造主はこの世界から「動物」を取り除くことによって、逆説的に「どうぶつの森」という名のあまりにも過保護で無垢なユートピアを、まんまと築き上げてみせたのではあるまいか。そこには現実には存在し得ない「誰も傷つかない世界」が広がっているはずである。そう考えると本作が今、世界から求められている理由もわかる気がするのだ。



orotima-ku1.png線引き論については別の機会に書きたい

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