NES版『スーパーマリオブラザーズ』(以下SMB)の新品未開封品が11万4000ドル、日本円にして約1220万円で落札されるという衝撃的なニュースがネット界隈をざわつかせています。すでに多くの日本のメディアが報じているのですが、弊ブログではレトロゲーム専門ニュースサイトとして、より正確な情報をお伝えいたします。
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「Super Mario Bros. - Wata 9.4 A+ Sealed [Hangtab, 3 Code, Mid-Production], NES Nintendo 1985 USA(Heritageオークション)
まず7月12日にこれを最初に報道したのは
GIGAZINEだったのですが、今回の出品物は1987年中期のバージョンであり
「1985年にアメリカで販売されたスーパーマリオブラザーズの初期生産版」という文章は非常に誤解を生む表現です。また以下は何度読んでも意味がわかりません。NES版『SMB』のバージョン違いを見分けるポイントを混同しておられるようです。
このテスト販売時にゲームソフトのパッケージを包むプラスチック製のフィルムを留めるため、任天堂はロゴ入りの黒色円形箔押しステッカーを使用していました。(中略)以下は今回11万4000ドルで落札されたスーパーマリオブラザーズの写真。こちらもパッケージ右下に「任天堂のロゴ入りの黒色円形箔押しステッカー」が確認できます。
この文章でいう「パッケージを包むプラスチック製のフィルム」とは、1986年中期版から導入されたビニール製のシュリンク包装のことであり、この文章でいう「任天堂はロゴ入りの黒色円形箔押しステッカー」はフタのところを留めている黒いSticker Seal(ステッカーシール)のことです。
※黒いSticker Seal『Captain Skyhawk』より(写真提供:石之丞) 右下のマークはRound SOQと呼ばれるまったく別物ですよ。わからないならデタラメ書くのはやめましょう。
同じく12日組の
Engadgetは「1987年半ばに登場したもの」とちゃんとした解説をしてました。ただし鑑定会社はWatGamesではなくて「WataGames」です。一方、翌日の7月13日に続いた
電ファミは
「このパッケージは1987年初頭に生産されており、バリエーションとしては5番目に位置する。」と解説しています。年は合ってますがバリエーションとしては初期の5番目ではなく中期の6番目です。今回の出品物にはパッケージ表側のロゴの下の黄文字の「ENTERTAINMENT SYSTEM」の横に「TMマーク」が付いてますので、Mid 1987と呼ばれる6番目のバージョンですね。
2020/07/14 電ファミニコゲーマー様に修正していただきました。
※解説図(参照:Wata Games Blog) 同じく13日組の
AUTOMATONはいったいどこのSOURCEをあたったのか知りませんが間違いだらけです。
パッケージ表面の右下に貼られるステッカーはcardboard hangtabと呼ばれている。任天堂がアメリカでゲームをテスト販売していた際に、プラスティックで梱包する前につけていたステッカー。テスト販売を経て米任天堂が設立されてからは、パッケージの梱包も変更されていく。
さきほども述べたとおり、右下のマークはRound SOQと呼ばれるNESパッケージに刻印された初期の任天堂マークであり、決してcardboard hangtabではございません。後半はなんだか自動翻訳からコピペしたのような文章になっていますよ。ちなみにcardboardという言葉がHangtabに付いているのは、のちに出たプラスティック製のものと区別するためだと思われます。「ダンボール」と訳しているメディアもありましたけどダンボールではありません。
2020/07/14 Automaton様に修正していただきました。 同じく
GIZMODEも
「初期のテスト発売された当時の、硬質なプラスチック「ハングタブ」で封印されたままだとあります」なんてトンチンカンなこと言ってますが、Hangtabが何なのか知らないならデタラメ書くのはやめましょう。
奇しくも先日、某Yahoo!ニュースに個人記事を配信しているサブカルライターが「デタラメ」書いてるといって
盛大に燃えたばかりなのに、名のある大手メディアがこんなデタラメ書いてたら、誰が彼を笑えるでしょうか、、、
以下に詳しく解説します。

Hangtab, NES-GP,Code,NES TM,No Rev-A,Round SOQ
5 Screw Cart
このWATAの表示部分をみてください。順番にいきましょう。
「Hangtab」とはNESのパッケージ裏側の上部についている商品をぶら下げるための部分のことです。1987年中期までNES版『SMB』にはこのHangtabがついてました。(現存する初期のNESソフトに完品が極端に少ない原因のひとつとして、このHangtabを利用したことによるフタ部分の破損が挙げられます)

Hangtabで面白いのは、NES版『SMB』は1985年10月以降(正確には確定してません)に発売して以来、1986年初期までシュリンク包装されておらず、上部のふたを丸いステッカーシールで止めていたのですが(ちなみに、この丸シールは初期はマット仕様、後期はグロス仕様です)、1986年からパッケージ全体をビニールでシュリンク包装するようになったんですよね。そのときこのHangtab部分がビニールの下になってしまって、まったく意味なしになったのですよ。
仕方ないので任天堂は新たなプラスチック製Hangtabをそのシュリンク包装の上から付けるという苦肉の策をとりました。このプラスチック製Hangtab自体は透明で「のり付けタイプ」や「シール付けタイプ」があることがわかっています。
※こちらはのり付けタイプのプラスチック製Hangtab『DIE HARD』より(写真提供:しぇぼる) NES版『SMB』においては、1987年9月にパッケージ直付け型のHangtabが廃止されるまでこの奇妙な状態がつづきました。その間に4種類のバリエーションが発生するのです。NES専門家S氏によると今回のNES版『SMB』にはこれを剥がしたあとが見られるということで、プラスチック製Hangtabのシールタイプが貼ってあった可能性が高いとのことです。
次に「NES-GP」ですが、これはパッケージ裏側の下部にある任天堂ロゴの下に「NES-GP」という文字が記載されているという意味で、1986年中期までこの文字は記載されていませんでした。「Code」というのはパッケージ裏側の上部に「NES P SM」というコードが記載されているという意味で、1986年後期までこの記載はありませんでした。Heritageが「3-code」と表記しているのはこれのことだと思われます。正直言ってこの「3-code」という言い方に関しては私もよくわかりません。
※後期のNES版『SMB』 「NES TM」というのは上述したパッケージ表側のタイトルロゴの下の黄文字の「ENTERTAINMENT SYSTEM」の横にTMマークが記載されているという意味で、これは1987年初期までありませんでした。このTMマークは後期になると®に変更されます。「No Rev-A」はパッケージ表側の最下部に「REV-A」という記載がないという意味で、これは1989年3月から記載されるようになりました。
「Round SOQ」はもう何度も出てきましたが、パッケージ表側の右下部にある黒い円形の任天堂マーク(裏側にもありますね)のことであり、これは1989年3月から白い楕円形(Oval SOQ)に変わります。
※左からネジ穴5マイナス型、ネジ穴3マイナス型、ネジ穴3星型 2行目「5 Screw Cart」はカートリッジの背面のネジ穴が5つという意味です。NESカートリッジのネジ穴の種類には「ネジ穴5マイナス型」や「ネジ穴3マイナス型」や「ネジ穴3星型」があり、初期のNESカートリッジは、スーパーファミコンのカートリッジ上部にあるようなツメが採用されるまでの期間だけネジ穴が5つでした。
現場からは以上です。
|  | これを理解しろというほうがおかしいかも^^ |
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