◆型番表記がない謎◆ バンダイのファミコンカセットには型番表記がない。
ファミコンコレクターをやってると必ずブチ当たる壁である。嘘だと思うなら実物を確認してみるといい。パッケージにも、ラベルにも、説明書にも、タイトル画面にも、型番らしきものは見当たらないのだから。ただし、だからと言ってバンダイのファミコン関連商品には型番がないわけではなさそうである。
※バンダイのファミコンソフトたち なぜなら、同社がリリースしたディスクシステムのソフトには、ちゃんと
BAN-〇〇〇っという型番がついてるのだ。これは個人的な見解であるが、この謎の現象にはバンダイがロイヤリティ契約だったことが関係するんじゃないかと私は睨んでいるのだった。
◆OEMとロイヤリティ◆ 当時、ファミコンソフトを製造・販売したい場合、ゲームメーカーは任天堂と「OEM」と「ロイヤリティ」、どちらかの契約を結ぶ必要があった。
「OEM」はいわゆる委託製造である。あらかじめ任天堂に費用を前払いしファミコンカセットをつくってもらう方式だ。この契約では10万本とも20万本ともいわれる最低製造本数が決められていたため、最初に莫大な資金が必要だった。ある意味、これがファミコン参入の大きな壁となっていたのである。一方、「ロイヤリティ」は自前でファミコンカセットをつくり任天堂に対価を支払う方式だった。当然、この方式だとメーカーは自前の製造工場をもっていいなければならなかったため、契約できるのは一部のメーカーに限られていた。また、任天堂は後期になるとOEM契約しかしなくなったため、ロイヤリティ契約を結んでいるのは初期参入メーカーだけだったのである。
OEMとロイヤリティ――。
両者を見分けるのは簡単だ。OEM契約で製造されたファミコンカセットの形状は2種類しかない。ノーマル型とノーマル大型である。このうちノーマル型はファミコンカセット総数の7割以上を占めるスタンダードモデルである。

※ノーマル型のカセット(ヨッシーのクッキー) 一方、ロイヤリティ契約で製造されたカセットはバラエティに富んでおり、メーカーそれぞれの独自性を発揮していた。これはファミコンというハードの唯一無二の特徴でもある。世界中を見渡してみても、ファミコンほどカセット形状の豊富なゲームハードなど存在しないのだから。バンダイでいえば、極端に丸みを帯びたボディに大きな溝が数本入ったカセットがそれである。これらの客観的事実からもバンダイが間違いなくロイヤリティ契約だったことがわかるのだ。
◆例外的存在◆ したがってバンダイのファミコンカセットに型番表記が見当たらないのは、自社製造だったことが大きく関係すると思われるのだが、例外ともいうべきカセットが少なくとも3本は存在しているのだった。
ひとつ目は『超時空要塞マクロス』である。
※パッケージ裏面を見ると、総発売元がバンダイ、開発製造がナムコとなっている。 このゲームソフトはバンダイが販売したものだったのだが、なぜか製造はナムコが請け負ったため
バンダイ製品でありながら形状はナムコ型という異質な存在だった。おそらくバンダイがファミコンへ参入する際に、当初、任天堂とロイヤリティ契約を結んでいたナムコへさらにOEMをお願いするという体裁をとったんじゃないかと推測される。しかしながら実際にバンダイがファミコンに参入したのは1985年11月発売の『キン肉マン マッスルタッグマッチ』であり、『マクロス』はその翌月に発売されている。言うまでもなく『キン肉マン』のファミコンカセットはバンダイの独自形状で、マクロスのあとにリリースされた『オバケのQ太郎』も独自形状。さらにいうとパッケージに記載されたナンバリングも飛ばされる始末である。(マクロスにはそもそも番号が振られていない)
この扱いの違いは何を意味するのだろう。考えられるとしたら、ナムコの委託製造が思ったよりも時間がかかったのか、あるいは、自社製造が思ったよりも早いペースで実現できたのか……。いずれにしてもバンダイはそれ以来、二度とナムコに製造を委託することはなかったのだ。余談だが、そんな両社が20年後に合併するなんて誰も思っていなかっただろう。なんとも因果な話である。
◆本数制限とダミー的なメーカー◆ ふたつ目の例外は『それいけ! アンパンマン みんなでハイキングゲーム!』である。

このカセットについて語る前に、ファミコンソフトの本数制限について語らねばなるまい。任天堂はアタリショックを教訓として、ファミコンソフトの粗製乱造による質の低下を防ぐために、メーカーへ「年間3~6本」という本数制限を強いたと言われている。各メーカーは、いわゆる
ダミー的なメーカーから自社のゲームをリリースするという方法でこれを回避していたのだ。サンソフトでいえば東海エンジニアリングがそうだった。他にもアイレムとタムテックス、カプコンとステイタス、ジャレコとNMKなどもそのような関係だった。当然、バンダイについても例外ではなく、同社の場合、エンジェルやシンセイ(ユタカ)がそのような存在だったのである。
加えて、ダミー的なメーカーはOEM契約であるためカセットの形状は必ずノーマル型なのだ。ここで冒頭の文章を思い出してほしい。私はバンダイのファミコンソフトの内、ディスクだけは型番が表記されていると述べた。なぜならディスクシステムのソフトはすべて任天堂製品(OEM)だからである。つまりエンジェルやシンセイが販売したファミコンカセットには、ちゃんと型番が記載されているということだ。エンジェルならばANG-〇〇、シンセイならばSHI-〇〇という型番表記がされるのである。
ここまで説明することで、やっとこのソフトの異質性がわかっていただけるだろう。実はこのゲームソフト、バンダイのダミー的なメーカーであるエンジェル名義でリリースされているにも関わらず、
なぜか型番が「BAN-OZ」になっているのである。そこにはどんなカラクリが隠されているのだろうか……
◆型番バージョン◆ さて、ここからが本題だ。
最後、3つ目の例外こそ今回の主役。漫画雑誌「週刊少年ジャンプ」の創刊20周年を記念してつくられた元祖お祭りRPG『ファミコンジャンプ英雄列伝』である。同ソフトのカセット形状はいわゆるバンダイ大型であり、これ以外では(上部の刻印に違いはあるものの)ファミリートレーナーシリーズが採用している形状だ。にもかかわらず、
『ファミコンジャンプ』には型番が存在するのである。
より正確に表現するならば
型番が表記されたバージョンが存在するといったほうがいいだろう。つまり『ファミコンジャンプ』には型番が表記されてないバージョンと、型番が表記されているバージョンが存在するということだ。後者を便宜的に型番バージョンと呼ぼう。tweet主の石之丞氏によると、型番バージョンはパッケージの上蓋の向き前後逆になっているという珍しい違いがある他、プラケースにも微妙な違いがあるのだという。私の独自調査では20本に1本くらいの割合でこの型番バージョンを見つけることができた。なかなかレア度は高い。
型番が記載されているのはカセットラベルの左下である。そこにピンク色の文字で「SHI-FP」と記載されているのだ。またパッケージの下蓋にも「13」という数字の上に記載されている。

写真提供:石之丞 注目すべきはその「SHI」いうアルファベット3文字だ。上述のとおり「SHI」はシンセイの「シ」。つまり
「SHI-FP」はシンセイの型番なのである。『ファミコンジャンプ』は歴としたバンダイ製のファミコンソフトにも関わらず、なぜ、そのダミー的メーカーであるシンセイの型番が振られているのだろうか?
なんのことはない。パッケージの裏面を見ると、そこにはちゃんと「製作・販売元 新正工業株式会社」と記載されているではないか。つまり本作は販売元がバンダイであるバージョンと、シンセイ(+バンダイ)であるバージョンが存在するということだ。
※左:初期バージョン 右:型番バージョン しかしながら、本数制限を回避するメーカーは多かったものの、あくまでもそこには本メーカーと、ダミー的なメーカーを隔てる明確な線が引かれるのが常識であり、本作のように、ひとつのタイトルで販売元が本メーカーである場合と、ダミー的なメーカーである場合が混在する例など、後にも先にもこの『ファミコンジャンプ』しか存在しないのだった。これは大変なことだ……
なぜなら、この事実は
ファミコン総数問題にとって重要な発見となるからである。
◆ファミコン総数問題◆ ご存知、ファミコンソフト総数は現在、1252本というのが定説となっているわけだが、実はこの数字は非常に暫定的なものであると言わざるを得ない。なぜならファミコンソフトの総数というのは、新しいソフトが発見されるたびに更新されてきたからである。それなのに、なぜだか知らないうちに1252本という数で現在、止まっているのだった。(新しいソフトが発見されているのにもかかわらず)
さらに厄介なことに、任天堂は公式サイトで
ファミコンソフトの総数を公表しているという事実が追い打ちをかけている。
参照:「株主・投資家向け情報:IRライブラリー」内「ヒストリカルデータ」内「連結地域別発売タイトル数推移表」(PDF)のデータより なんと任天堂によるとファミコンソフトの総数はが1047本なのだ。便宜上、これを公式数と呼ぶことにしよう。
にも関わらず、である。この数字は界隈にまったく浸透してないばかりか、長年、無視され続けて来た。なぜ世間は公式数を無視しつづけるのか。その理由は
内訳がわからないからだ。任天堂はこの1047本の内訳(自社/OEM/ロイヤリティ)の詳細をいっさい公表してくれないのである。問い合わせしても「公表していること以外は答えられない」とのことだった。
内訳さえわかれば……。公式数の内訳さえわかれば、それが「ファミコンソフトの総数」ってことになるのではないか。つまり、ファミコン総数問題は解決するのではないか。私はそんな希望を抱かずにはいられないのだ。話を戻そう。そう考えるとOEMでもあり、ロイヤリティでもある『ファミコンジャンプ』というイレギュラーな存在は間違いなく、公式数の内訳を解くカギとなるはずである。いや、語弊を恐れずに言うならば「なる」のだ。
なぜ断言できるかというと、現在、私は公式数の内訳について、かなりのところまで研究を進めており、9割がた判明しているからである。あともう一歩のところまで来ているのだ。しかしその詳細を書き記すにはさらに膨大なデータを示さなければならず、あまりにも長くなりすぎるため、今回はここまでとしたい。公式数の内訳については、また、別の機会に発表することにしよう。
現場からは以上です!
|  | 思ったより長くなってしまった…… |
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