かつて――
初代『ドラクエ』のラスボスの姿を
無断掲載したファミコン雑誌が
廃刊に追い込まれてしまった。

皆さんはそんな都市伝説を耳にしたことはないだろうか。
このセンセーショナルな出来事は、当時、大ニュースとなったのだが、やがて月日がすぎると共に人々の記憶から消え去っていったのだった。そして令和の現在、確定している事実といえば、その
雑誌の名前が「ハイスコア」だったという一点のみ。
内容については以下のような諸説紛々が飛び交っており、
デマと真実のカフェオレ状態となっているのが現状である。
【原因】
・『1』ラスボス(竜王)を掲載
・『2』銀の鍵の位置を掲載
・『2』ラーの鏡の位置を掲載
・『2』いなづまの剣の位置を掲載
・『2』塔の階段&宝箱の位置を掲載
・『2』ラスボス(シドー)を掲載
・『3』ラスボス(ゾーマ)を掲載
【結末】
・発禁になった
・回収になった
・廃刊になった
今回のエントリーは、そんなハイスコア事件の真実を明らかにするため、12年間にわたりこの都市伝説を追い続けた筆者の調査記録である。参照資料があまりにも膨大な量になってしまい、それにともなって取り扱うトピックも多岐に富んでいるため、連載という形で進めて行こうと思うのだ。どうか、最後までお付き合い願いたい。
※ドラクエシリーズのナンバリングは本来「ローマ数字」で表記されますが、本稿では便宜上「アラビア数字」で表記しています。 ◆ハイスコアというB級雑誌◆ そもそも「ハイスコア(Hi-SCORE)」は1986年3月、英知出版より創刊されたファミコン雑誌だった。その最終号は1990年5月号であり、少なくとも『ドラクエ4』が発売される時代まで発行されていることがわかっているため、
竜王掲載によって廃刊になったという世界線はいきなり消滅することになるのだ。
良かった、、、
竜王の炎に焼き払われたファミコン雑誌なんて無かったんだね!
おそらく廃刊になった云々という話はこの都市伝説を
都市伝説たらしめているケレン味のようなものなのだろう。一時、ステータス画面が真っ赤になったことは間違いないが、ハイスコアはその後もピンピンしているのだ。ファミコンソフト『ゾンビハンター』(1987年7月3日発売)を製作するなど、メーカーとしてご存知の元ファミっ子諸君も多いはずである。

しかしながら廃刊こそ免れたものの、雑誌としてのハイスコアはマイナー誌の領域を出ることはなかった。なぜなら当時は「ファミリーコンピュータMagagize」「ファミコン通信」「ファミコン必勝本」「マル勝ファミコン」といったメジャー四大誌が覇権を争っていたからである。ファミコン雑誌の世界にはメジャー誌とマイナー誌のあいだに絶対に越えられない壁がそびえたっていたのだ。
むしろ「ハイスコア」に関しては、
自らB級路線をつっぱしっていた感が強かったところが特徴的なのである。
※ハイスコア創刊2号より たとえば創刊2号では、コナミに黙ってまだ発売前だった『グラディウス』の先行特集を組んでしまい怒られたというエピソードがある。これは誤ってファミコン版の画像を提供してしまったコナミ側のミスだったのだが、他誌ならきっと忖度(そんたく)して見なかったことにしていたであろう。
また、創刊3号では当時、まだまだ主流の音楽メディアのひとつであったレコードの制作に着手。
※ハイスコア創刊3号より この「売れるものは何でも手を出す」という貪欲な姿勢が、
のちのファミコンソフト制作へとつながっていくのである。
さらに当時、ファミコンソフトはまだまだ高価だったので「交換する」という文化があったのだが、そこに目をつけたハイスコアは「ファミコン交換レート」という実質、読者による人気投票を開催。結果的に不人気ソフトの交換を促すようなコーナーを毎週、掲載したのだった。
◆攻めのスタイル◆ このような攻めのスタイルは、編集長だった甲斐健一氏の手腕によるところが大きかったと言われている。

「噂の真相」1995年5月号によると、甲斐氏は当時人気を博していた元祖ファミコン雑誌ファミリーコンピュータMagagizeの対抗誌をつくろうと英知出版の社長をくどき落とし、「ハイスコアメディアワークス」という別会社を設立。そこで自ら編集、営業、発行を担当したという行動力の化身であった。こうして1986年3月に創刊された「ハイスコア」は7万部、3号では30万部を売りあげたのである。2021年現在のファミ通が公称20万部であることを考えると、これはとんでもない数字だ。それでもハイスコアはマイナー誌だったというのだからファミコンブーム期の恐ろしさよ、、、
さすが1985年10月31日、徳間書店より発行された『スーパーマリオブラザーズ』の攻略本が、
たった2ヶ月でその年のベストセラー(なんなら翌年も)に輝いてしまうだけのことはある。

・
出版業界の常識「スーパーマリオ攻略本伝説」とは!? しかしハイスコアは、そんな勢いのある業界のなかでもメーカーとは馴れ合わず、あくまでもニュース性を重視。雑誌が売れるためなら業界から嫌われることも厭わないスタイルが仇(あだ)となって、やがて勢いをなくしてしまうのだった。気になるところを少し引いてみよう。
任天堂と徳間書店の『ファミ・マガ』が最新情報の優先公開契約を結んだことに反発した甲斐は、任天堂や徳間書店と対立。任天堂から情報を締め出され、雑誌も低迷。同時に英知とも対立してしまう。出典:「噂の真相」1995年5月号
「ファミ」と「マガ」の間の中黒が気になるところであるが、そんなことよりも任天堂と徳間書店が結んでいたという優先公開契約なるものが気になるところだ。2011年7月14日発行「超実録裏話ファミマガ」によると徳間書店はディスクシステムのソフトの説明書を担当するなど、任天堂とはファミコン雑誌という枠を超えた、深い付き合い方をしていたことで知られている。
ハイスコアの攻めのスタイルは、そんな業界の構図に対する反骨精神の現れだったのだろう。

余談だが、Wikipediaでは最終号とされている1990年4月号に廃刊する雰囲気が微塵もなく、巻末には5月号の予告さえ載っていたのであるが、何のことはない。本当はその5月号が最終号だったのだ。
◆絵に描いたような諸説紛々◆ 一方、不肖ながらバリバリの小学生として洟(はな)をたらしていた私オロチは、ご多分に漏れず、熱心なファミマガ読者だったことを白状しておこう。ハイスコアに対しては「ドラクエでやらかした雑誌」というイメージしかなかったし、もっと言えば、大人になるまでずっと私は
竜王掲載説を信じていたクチだったのだ。
しかしそんな純粋なファミコン少年が突然、モーニングスターで後頭部をどつかれたような思いをしたのは今から12年前のこと。私は2009年1月に「
昔のファミコン雑誌はとっておくべきだった!!!」という記事を書いて、人生で初めてBUZZったので少し浮かれていたのだが、このエントリーのなかで「ハイスコア」について、当たり前のように竜王掲載説を披露したところ、多くの皆さんから事実誤認の指摘をいただいてしまったのである。
以下に、そのときのコメント欄を再現してみよう。
Hi-SCOREはラスボスじゃなくて情報規制されてた銀の鍵を明記したトラブルかと
2009/01/27(20:50) 235.名無しさん
銀の鍵じゃなかったような・・・
ドラクエⅡのラーの鏡の場所を写真付きで載せていたと記憶。
2009/01/28(08:14) 240.zaku
ドラクエⅡとハイスコアの問題はですね
正確な名前忘れたけど龍の角?とかいう塔の階段と宝箱の位置を載せたからです。
昔のドラクエのラスボス規制は有名ですが
攻略本にすら宝箱の位置を載せないような主義でしたからね。
ラーの鏡とかそんなの初めて聞きましたよ?
2009/01/29(13:54) 246.名無し
ハイスコアの「ラーの鏡記載」による回収騒ぎ、
懐かしいですね・・・。
あの号は確か全体的に水色っぽく、ファミスタの
ピッチャーが描かれた表紙だったはずです。
この号は持ってたので覚えてます。
書店からの回収騒ぎは、確かニュースで見て知ったと
記憶してます。
2009/02/03(13:17) 257.名無しさん
間違っている情報が載っています。
ハイスコア誌はラスボスやラーの鏡も載せていないはず。
そして回収にもなっていないわけで。
2009/03/15(10:05) 290.なんか
× ドラクエのラスボスを無断で載せた
× ラーの鏡を乗せた
× 回収された
○ 序盤の塔の階段と宝箱の位置を知らせないように規制されていたのを載せてしまった
ちなみにマルカツの場合は階段と宝箱の場所を黒ベタで塗り潰して「知らせるように」掲載していた
2013/11/10(12:39) 2234.正しい情報は
絵に描いたような諸説紛々である。
驚いたことにこの光景はヤラセでも仕込みでもなく、本当に弊サイトのコメント欄で起こったやりとりなのだ。こんなことされては我が知的好奇心にマホトーンなど効かない。いったい何が真実なのか気になってしまうではないか!
◆もうひとつの竜王伝説◆ さっそくググってみたところWikipediaが出てきたのだが、そこには『ドラクエ2』に登場する
塔の階段と宝箱が掲載されていたことが問題になったという「塔の階段&宝箱説」が採用されていたのだった。
1987年2月、前月に発売された『ドラゴンクエストII 悪霊の神々』の、序盤にある塔の階段と宝箱の写真がハイスコア3月号に掲載された。 当時、エニックスが雑誌向けに行っていた情報規制として、該当の塔の階段と宝箱が掲載されていたことが問題となり、エニックスから東京地方裁判所に仮処分申請を出され、2月24日に裁判所から仮処分命令を受けた。[1] その影響によって次号では「ドラゴンクエストII」の写真を掲載されなかったが、一時的なものだった為にその後もエニックス製品「ドラゴンクエストIII」の記事なども掲載している。
なお、最終ボスなどを出すなどのネタバレをしたために廃刊に追い込まれた、という情報が出回っているが、それは高橋名人が逮捕されたというデマなどと同様に、誤った情報に尾ひれがついて噂が一人歩きをした結果、それを現在でも信じてしまっているというのが実情である。