これはファミコン雑誌「ハイスコア」の竜王掲載伝説を、12年間にわたって追いつづけた筆者の調査記録である――

前回の記事は
こちら。
◆大森田氏が語る内情◆ これまでの調査でハイスコア事件の原因が『ドラクエ2』の攻略記事にあったことが確実となった今、改めて真意をうかがたいのは、元ハイスコア編集者の大森田不可止氏による
「竜王を誌面に出した」という証言ではないだろうか。ついにそのときが来たのだ。私は時間をかけてかき集めた資料を手に、大森田氏へコンタクトをとったのだった。
実は大森田さんには
「茶色いゾンビハンター」の件で大変お世話になっており、今回も失礼のないよう、できる限り調査をしてから話を伺おうと決めていたのである。
さっそくそのときのやりとりを以下に再現してみよう。
|  | オロチ:ご無沙汰しております。茶色い『ゾンビハンター』の件では大変お世話になりました。大森田さんのおかげでYahooニュースにまでなっちゃいました^^ |
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|  | 大森田:見ました。びっくりですね。でも、そうやって地道に調べた成果が評価されたんだと思います。おめでとう。 |
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|  | 恐縮です! |
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|  | さっそくなんですが、今回はドラクエ訴訟について調査しています。実はずっと竜王が掲載されているハイスコアを探しているのですが、ぜんぜん見つからなくて、、、 |
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|  | 興味をもってくださってありがとうございます。でも、さすがに30年前なので詳細は覚えてないんですよ。エニックスに訴えられた時系列は良く覚えているんですがw |
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|  | それはどのような経緯だったのでしょう? |
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|  | ドラクエ訴訟は、その1週間くらい前から編集長とエニックスの福島社長が頻繁に電話会談していました。 |
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|  | 編集長は女性誌出身でゲームの出版はニュース報道だという立場の人でした。訴訟を受けて立つ準備は万端だったのです。 |
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|  | ところが東京地裁で仮処分が認められ戦う前に負けてしまった。 |
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| 仮処分 かり‐しょぶん【仮処分】 訴訟の遅延や債務者の財産隠匿などによって権利の実現が危険に瀕(ひん)している場合、その保全のために、裁判所により暫定的、仮定的になされる処分。
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|  | では、1987年4月号に挟まっていた紙切れはそのときの? |
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|  | それは仮処分が下って掲載できない記事があったので、禁止事項を短時間で反映させながら、言葉だけで伝えようとしたのです。 |
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|  | 画像が不自然に塗りつぶされた記事があったのは、そういうことだったのですね。 |
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|  | 12月号にはおわび文も載っています。仮処分が下ったのは2月でした。ずいぶんとタイムラグがあるように思えるのですが、、、 |
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|  | ハイスコア、英知出版側は正式な訴訟で勝つつもりでいたからじゃないかな。弁護団を準備してたし。だけど、世間の風評があまりにも逆風で断念したのだと思います。 |
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|  | しかし竜王の画像についてはどの資料を見てもまったく触れられていません。 |
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|  | 竜王の画像はエニックスが怒っちゃって、訴訟の原因になったのは確かです。ただ、技術的な問題があったので、裁判では竜王にフォーカスしてないと思います。 |
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|  | 技術的問題とは何でしょう? |
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|  | 竜王も要件のひとつかもしれませんが、訴訟ですからゲームに詳しくない裁判官を説得できるように論理構成をしていたと思います。 |
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|  | なるほど。ありがとうございました! |
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※大森田氏本人にアイコン画像使用の許諾を得ています。 大森田氏は竜王の画像が「訴訟の原因になったこと」を改めて否定しなかった。ただし、それが仮処分の判断材料にはならなかったようである。
さすがに当時の現場の生の声は迫力が違ったが、インタビューを終えて私は「原因になった」という言葉のニュアンスについて、改めて考えさせられたのだった。ひとくちに原因と言っても、
裁判を起こす引き金となった直接的な原因と、
積もりに積もった間接的な原因と、二通りのニュアンスがあることがわかったのだ。そう考えると大森田氏の「竜王の画像はエニックスが怒っちゃって訴訟の原因になったのは確かです」という証言は、後者の意味であることは間違いないのだった。
◆ついに正体を現した竜王◆ そんな大森田氏の言葉を受けて、改めて過去のハイスコアを調べ直すことにした私は、自分の愚かさを痛感することになる。ハイスコアに初代『ドラクエ』の攻略記事が存在しないのは、ゆるぎない事実だったのだが、恥ずかしながら、裏技のコーナーには何度か取り上げられていたことに気づいたのだった。
先入観とは恐ろしいものだ。一体いつから私は
竜王が攻略記事に載っていると錯覚していたのだろう、、、
とうとう見つけてしまったのだ。
1986年9月号の裏技記事の片隅に。
夢にまで見た変身後のその姿を、、、
私はついに竜王と邂逅(かいこう)を果たしたのである。

小さい!
そしてモノクロ!
他紙と比べるとずいぶん地味な竜王だ。でも、まぎれもない竜王だ。信じて良かった。貫いて良かった。しかし、まさかこのような極小モノクロ記事が、のちに怪しくも魅力的な
“もうひとつの竜王伝説”を生み出すことになろうとは誰が予見できただろうか。おそらく投稿者である山梨県の横田くんすら想像だにし得なかったことだろう。まさか自分が送った裏技のせいで、数十年後に竜王探しの旅に出るやつがいるなんてことを、、、
ここで、大森田氏の「エニックスからクレームは以前からあった」という
tweetが思い出される。本文を読んでみると、この裏技の記事が立派なクレーム対象だったことがわかるのだ。
最初、キミは竜王と話をする。この時、竜王は人間に姿を変えている。まず、これを倒すのだ。そうすると、ここで始めて竜王は、その本性を現わす。と同時に音楽も竜王と戦う時の音楽に変わる。(原文ママ)出典:1986年9月号 裏技記事より
完全なるネタバレではないか。
しかし私はそこに一抹の違和感のようなものを憶えたのだった。
◆エニックスの対応◆ 初代『ドラクエ』が発売されたのは1986年5月27日である。一方、ハイスコアに竜王が載ったのは9月号だ。雑誌の発売日が、記載されている発行日よりも約1ヶ月ほど早いことを考慮しても、実に4ヶ月くらいは経っているのだ。新作ゲームの特集ならいざ知らず、4ヶ月も前のゲームのネタバレ記事(しかも攻略記事に非ず)に抗議が来るなんて、まさか編集部も思っていなかったであろう。
もしかしたらエニックスの神経質な対応は、単なるネタバレに対してではなく
「ラスボスの変身後の姿」という非常にサプライズ性の高いネタバレであることが関係しているかもしれない。

思い出されるのは『ポートピア連続殺人事件』犯人ネタバレ騒動である。
月刊WiLL2011年12月号増刊「すぎやまこういちワンダーランド」にて、すぎやまこういち氏が語ったところによると、当時、ビートたけし氏がラジオ放送で『ポートピア連続殺人事件』の犯人をバラしてしまった際に、エニックスは猛抗議をしたのだという。しかし逆に「言論の自由だ」と開き直られてしまったらしい。エニックスはこのときの苦い経験があり、ラスト周りのネタバレには慎重になっていたのではあるまいか。
勿論、そのような事情があったにせよ、ハイスコアの場合は一種の
「見せしめ的な要素」があったことは否定できないのだが、、、
※雑誌の実際の店頭発売日は、表記された発行日のおよそ1か月前となります 時系列を見みてみると、ハイスコアの竜王掲載が
どの他誌よりも遅かったことが歴然とするのだ。そもそも変身後の竜王の姿は、発売前のチラシや少年ジャンプにそのイラストバージョンが載っていたことは
連載第3回で述べたとおりである。
また、これも
連載第2回で指摘していたことであるが、ハイスコア9月号の約1ヶ月後に発行されたファミマガ(徳間書店)の初代『ドラクエ』攻略本は、竜王のネタバレが堂々と掲載されているにも関わらず2年間以上も発行しつづけているのだった。
エニックスのネタバレ対応に見える、この
“ちぐはぐ具合”は一体、何を意味するのだろうか?
◆まとめ◆ その考察に入る前に、一旦、話をまとめよう。
【原因】
○『1』ラスボス(竜王)を掲載 ※1
・『2』銀の鍵の位置を掲載
・『2』ラーの鏡の位置を掲載
・『2』いなづまの剣の位置を掲載 ×
・『2』塔の階段&宝箱の位置を掲載
・『2』ラスボス(シドー)を掲載
・『3』ラスボス(ゾーマ)を掲載
【結末】
・発禁になった ×
・回収になった ×
・廃刊になった ×
◎改正後、発行された
※1:原因のひとつではあるが、仮処分の対象にはなっていない
大森田氏の証言を信じ抜いた私はついにハイスコア1986年9月号において、竜王の変身後の姿を発見したわけであるが、この裏技記事は、あくまでもドラクエ訴訟の原因のひとつであったという意味では〇である。しかしながら「裁判を起こす引き金となった直接的原因=仮処分の対象」にはならなかったという意味で※付きとした。
詳しい理由は最終章でまとめて述べさせて頂きたい。
|  | つづく |
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ドラクエ訴訟の原点「ハイスコア事件」をめぐる調査記録
(1) もうひとつの竜王伝説
(2) 公式ガイドブックの謎
(3) 消えたドラゴンロード
(4) マスコミの発禁報道
(5) そして都市伝説へ…
(6) 竜王説は生きていた
(7) 信じ抜いたすえの邂逅
(8) 堀井雄二のネタバレ観
(9) すべての伝説を越えて
(番外編) ファミマガ編集長の視点
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