これはファミコン雑誌「ハイスコア」の竜王掲載伝説を、12年間にわたって追いつづけた筆者の調査記録である――

前回の記事は
こちら。
◆「いなづまの剣」説の誕生◆ これまで見てきた通り、当時の大手新聞各社やメジャーファミコン誌は例外なくハイスコア事件について「発禁」報道をしていたのであるが、では、さらに時代が下るとどうだろう。私が注目したのはアングラ系ゲーム雑誌「ゲームラボ」1999年7月号である。

GL電脳事件簿という連載記事で紹介されたハイスコア事件は『ドラクエ2』の攻略記事をめぐってエニックスとハイスコアメディアワークスが争ったものと紹介されていたのだ。ここまでは史実通りであるが、その原因として
「いなづまの剣」掲載で対決!!という小見出しが躍っているのが目新しい。
いなづまの剣を原因とする説まであったとは。私はさっそく当時の文献や、SNSなどを調べてみたのだが、残念ながら誰一人としてこの説を唱えている者はいなかったのだ。いったいこの説は、どこから発生したのだろう?
◆そして「都市伝説」へ…◆ しかしゲームラボの異質性はそれだけではなかった。記事のなかで界王さまみたいな顔した人物が驚くべき発言をしていたのだった。

この界王さま。昭和62年(1987年)4月号以降、「ドラゴンクエスト2」を実行して表示する画面を掲載してはならないという顛末については、仮処分決定主文とおなじ内容を伝えていたのにも関わらず、最後の締めの一文で盛大にやらかしていた。なんと、
「廃刊に追い込まれてしまったとな」などと嘯(うそぶ)いているではないか。「とな」という伝聞型ではあるものの、こいつは間違いなく廃刊説!
連載第1回の記事で示した通り、廃刊説はまっさきに否定されるべき初歩的なデマではあるのだが、正直、私は廃刊説を唱えている文献に出会えたことが少し嬉しかったのだ。また、このゲームラボの記事が1999年の時点であったことを考えると興味深い構図が見えてくる。つまり、マスコミ媒体が伝えるハイスコア事件の顛末は、時が経過するにつれ
「発禁」という表現が「廃刊」という、よりセンセーショナルな言葉へと変化していったのである。
こうして、都市伝説はケレン味を増していくのか、、、
◆驚くべき真実◆ しかし、さらに調査を進めていくと、私はアミューズメント業界紙「ゲームマシン」1987年4月1日号に
“驚くべき真実”を見つけたのだった。ゲームマシンは2019年6月に全てのバックナンバーを電子アーカイブ化。ネットで無料公開するという、ビデオゲーム考古学に多大なる貢献をされている素晴らしい業界紙である。

今回の事件はハイスコアメディアワークス(株)が編集、発行し、英知出版(株)が発売している月刊雑誌「ハイスコア」の四月号(2月28日発売予定)で「ドラゴンクエストII」の完全無敵攻略法を掲載、発行しようとし、これが同ゲームの謎解きに当たることから、TVゲームの著作権侵害(著作権者の提示した条件に違反した無断使用」」を理由にエニックス側が同雑誌の発売禁止などを求めて、仮処分申請したもの。東京地裁民事第二十九部はエニックス側の申請を認め、2月24日に仮処分決定を出した。(中略)
この仮処分決定は直ちに執行され「ハイスコア」四月号は結局、該当ページの削除されたものがその後、改めて発行、発売された。
なんと、大手新聞各社やメジャーゲーム誌が「発禁」を伝えるなか、この業界紙だけは
該当ページを削除されたハイスコア4月号が改めて発行されていたことを伝えていたのだった。
つまりこうだ。非常にややこしい経緯ではあるのだが、エニックスはハイスコア3月号に対して抗議し、4月号に対して「発行差し止め」を求める仮処分申請をした。結局、その申請は認められるのであるが、冒頭に示した仮処分決定主文にある通りその内容は
『ドラクエ2』のゲーム画面を掲載した雑誌の発行を差し止めるものであり、無条件に雑誌そのものを差し止めるようなものではなかったのだった。したがって、4月号は内容が改正されたものが改めて発行されていたのである。
良かった。
発禁になった4月号なんて無かったんだね!

何のことはない。私はその後、無事に
ハイスコア1987年4月号を手に入れたのだった。これ以上の証拠はないだろう。当時、さんざんマスコミに発禁報道されたハイスコアは、実は発禁になってなかった、、、これが真実である。
◆まとめ◆ 以上の調査から諸説紛々の【結末】については以下のようになった。
【原因】
・『1』ラスボス(竜王)を掲載
・『2』銀の鍵の位置を掲載
・『2』ラーの鏡の位置を掲載
・『2』いなづまの剣の位置を掲載 ※NEW!!
・『2』塔の階段&宝箱の位置を掲載
・『2』ラスボス(シドー)を掲載
・『3』ラスボス(ゾーマ)を掲載
【結末】
×発禁になった
×回収になった
×廃刊になった
◎改正後、発行された
発禁説については東京地裁から発行差し止めの決定を下されたのは事実であり、厳密な意味で言えば、本来発行する予定の4月号は差し止められていることから〇としたいのだが、現実は、内容が改正された4月号が何の問題もなく無事、発行されていることから×とした。また、その発祥については当時のマスコミが盛んに「発禁」報道したことに由来することが判明した。
回収説については、発行されたほうの4月号の内容が改正されたのが、本来の4月号が発行される前であったことから、回収になったわけではないので×とした。
以上のことから、【結末】の最適な表現は
「改正後、発行された」というのが妥当なところであろう。
|  | つづく |
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ドラクエ訴訟の原点「ハイスコア事件」をめぐる調査記録
(1) もうひとつの竜王伝説
(2) 公式ガイドブックの謎
(3) 消えたドラゴンロード
(4) マスコミの発禁報道
(5) そして都市伝説へ…
(6) 竜王説は生きていた
(7) 信じ抜いたすえの邂逅
(8) 堀井雄二のネタバレ観
(9) すべての伝説を越えて
(番外編) ファミマガ編集長の視点
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