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僕の人生観を変えたSSR級八方美人A子の話

 僕とA子は何もかも真逆だった――

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 僕は車を運転するとき、信号で止まるくらいなら回り道をしてでも止まりたくないという「キン肉マン」でいうところの長足ゴンみたいな性格をしている男である。どれくらいそうかといえば「市内の脇道がすべて頭に入っているくらい」そうだ。誇張でないところが非常に残念である。一方、A子はおおらかでゆったりしていて何事にも動じないザ・田舎のお嬢様といった感じの女だ。きっと育ちがいいのだろう。衝撃的な話がある。それはまだA子と付き合う前のことだった。ひょんなことから彼女の実家(とんでもなく土地が広い)へ遊びに行った僕は、たしか流れで夕飯をごちそうになったのだった。するとそのとき彼女の家族がテレビで二時間サスペンスドラマを見ながら「きっと犯人は〇〇だ」だの「このあとこうなるぞ」だの何の屈託もない話で盛り上がっているではないか!

 ......もう一度言おうか。
 なんと、彼女を含めた家族がテレビを囲んで楽しく会話をしていたのだ。

 僕にはその光景がとても信じられなかった。なぜなら僕は家族で食事をしたこともなければ、家族でテレビの内容について大真面目に話し合ったこともなかったからだ。いや「従順に」といったほうがいいだろう。だってテレビなんて真剣に見るものじゃない。むしろ文句をいいながら見るものだろ。ましてや二時間サスペンスドラマなんて、どうせ8割くらい船越英一郎が崖で事件を解決する話ではないか。見るまでもない。RTAだったら最初から崖に行ってる。まあ百歩譲ってそれはいいとしてもサスペンスドラマって必ず人が死ぬのだ。これが「信長の野望」だったなら、たとえば武将の体力だと思っていた数値が実は何千単位の兵士の命だったところで、それぞれの兵士には家族がいて恋人がいて仲間がいて......なんていちいち考えないだろう。でも二時間ドラマの場合はむしろメインテーマだ。死がメインテーマなのだ。しかも殺人である。僕は人類史上「殺人」ほど悪趣味なエンターテイメントなどないと思っているのだ。もちろんそこには人間ドラマがあるかもしれない。でも「死」が絡んでいる以上、決してお気楽ご機嫌なシナリオにはならないはずだ。少なくともファミリー向けではないと言ってるのだ。それなのに彼女の家族は二時間ドラマを心の底から楽しんでいた。臆面もなくその物語にのめり込んでいた。一周まわって狂気の沙汰である。

 だが逆に考えてみよう。それは提供されたものを何の疑いもなく心の底から楽しめてしまう「人生力」みたいなものがズバ抜けて高い人間のあつまりだったということだ。それがA子の家族だった。そりゃあのびのびと育つわなあ。

 そんな家庭環境で育ったA子が八方美人になるのは至極当然の帰結だった。疑うことを知らないからだ。しかも彼女はかなりレベルの高いSSR級八方美人であり、本当に誰に対してもいい顔をして仲良くなろうとする。良くいえば聖人。悪くいえば外面(そとづら)の化身だった。誇張でないところが非常に残念である。僕のような、できるだけ他人とは必要以上に会話したくない「言葉は無粋。押し通れ」が口癖の偏屈ジジイとは180度違う対極の存在だ。しかしそんな僕でも社会人になって気づいたことがひとつだけある。それは「会話に目的など必要ない」ということだった。きっと多くの皆さんにとってそれは当たり前過ぎて拍子抜けされたかもしれないが僕にとっては大発見だった。人間の会話は往々にして「会話すること自体が目的」であることが多く、必ずしも会話に目的など必要なかったのだ。SSR級八方美人のA子がそんな真理を知らないわけもなく、彼女はまるで会話しながら生まれて来たんじゃないかと思うくらい鮮やかに、何の躊躇もなく他人と無駄話をすることができた。まさにコミュ力の怪物。

 だがそんな彼女に悲劇がおそったことがあったのだ。

 それは僕たちがまだ付き合って1年くらいの頃の話だ。A子はとある飲食店でアルバイトをしていた。持ち前のコミュ力を発揮して社員に誘われたこともあるくらい評判が良かった。そこへB美という女性がアルバイトで入ってきた。A子は先輩としてB美に仕事を教えていた。B美との仲はプライベートで遊ぶほどでもなかったが悪くもなく良くもなかったという。ある日、B美は悩んでいた。詳しいことは不明だがそれはバイトを辞めようかというくらいの大きな悩みだったらしい。聖人であるA子がそれを見過ごすはずもなく。彼女は仕事帰りに「話を聞こうか」とB美をお茶に誘ったという。どこか違う店だったかその辺のベンチだったか、ともあれA子は仕事帰りにB美を誘い親身に話を聞いてやったのだった......。

 しかし結局のところB美は店をやめてしまった。それから数日が経ったある日のことだ。B美の夫を名乗る男が店に乗り込んで来た。男はものすごい剣幕で「A子を訴えてやる!」と言い放ったそうだ。店長が男をなだめすかすように理由を聞いた。すると男は信じられないことを口にしたのだ。

 うちの妻(B美)はA子から
 時間外に仕事の話をさせられた。
 これは完全なパワハラだ!
 
 いわゆるとばっちりである。そもそもB美の悩みにA子は無関係だったのだ。それなのに内に流れる八方美人の血がさわぐのを抑えられず彼女はB美を時間外に誘ってしまった。深く関わってしまった。A子の八方美人はつけ込まれたのだ。(夫の早とちりだったかもしれないが)。当時A子の彼氏だった僕は彼女からその話を聞いておそらく世の中の男が女に一番言ってはいけないことを言った。「それは君が悪い」と。あろうことが責めてしまったのだ。これは万死に値する世界共通ワースト1位の男の行動だ。先にネタバレしてしまうと結局、B美の夫がA子を訴えることはなかったし、それ以上何もなかったわけであるが、振り返ってみると当時の僕は本当にクソみたいな彼氏だったことを猛省したい。なおも僕はしたり顔でまくし立てたのだ。「付き合う人間は選べ」「誰にでもいい顔するな」「人間関係には越えてはいけない一線がある」当時の僕は何を知っていたというのだろうか。対人関係のスペシャリストでもなんでもない、むしろファミコンしか友達のいない30男が何を知っていたというのだろうか。さらに僕は言葉をつづけた。

 「君はもっと他人を疑ったほうがいい。なぜひとは裏切られるのかわかるか。それは信じているからだよ。君はむやみに他人を信じ過すぎるんだ。だったら最初から信じなければいいじゃないか。簡単なことだよ。俺のように他人を信じなければ裏切られることもない。」

 するとA子はまっすぐな瞳(め)をしてこう言った。

 「私は......裏切られてもいい......」
 「えっ!?」

 「他人を信じられないくらいなら裏切られたほうがいいよ!」

 そう言って彼女は両手で顔を覆ったのだ。衝撃だった。それは今までのわずか30年弱にすぎない僕の人生の全否定だった。しかし同時にコミュニケーションに対する考え方が変わった瞬間でもあったのだ。いや「人生観」といったほうがいいだろう。まさかこんな考え方があるとは。こんな生き方があるとは。これが八方美人の美学なのか。覚悟なのか。矜持なのかと思った。それはあまりにも強くて危(あやう)くて美しかった。僕はこのとき初めてこう思ったのだ。この女と結婚したい......。

 今の妻である。


 🐍🐍🐍


 よく「結婚相手は価値観が同じ人間を選ぶべし」なんてアドバイスを耳にするがあれは嘘だ。なぜなら私と妻はいまだに何もかも真逆なのだから。地球でいうなら北極と南極ぐらい真逆だ。いや「対極」といったほうがいいだろう。それでも15年以上何事もなく結婚生活を送ってこられたのはむしろ対極だったからなのではないか。最近はそう思うようになった。なぜなら磁石は対極のほうがくっつくではないか。案外人間もそうなのかもしれない。




orotima-ku1.png※これは実話をもとにしたフィクションです。

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コメント

生涯独身の私が言う事じゃないですけど、
結婚はお互い無いものと補える関係がいいとも、言いますよね。
同じ価値観同士は素晴らしいけど、何か問題が襲ってきた時に、同じ対処しか出来ず自滅して離婚もある。
違う者同士、お互い無いものを補えるからこそ、乗り越えられると。
まぁ経験に基づく価値観や知恵も2倍になるとv(´∀`)vニバイニバーイ!!
違う者同士、喧嘩を何度も繰り返して、凸凹な〇を、綺麗な〇に研磨していくと思います。
それを子供や兄弟、そして友や他人にも研磨する努力がお互い必要じゃないかと。
今はその価値観は老害扱いで、薄れて消える一方ですけどね。

まぁ親や兄弟でさえ結局、「最も親しい他人」です。
その分、憎悪が深く焼き尽くされる事もある。
私も裏切るより、裏切られる人間でありたいと思っています。
疑いを続けると、心や精神が疲弊するんですよ。
業って、そんなもんじゃないかなって昔から妙に達観してる部分もあって。
もちろん、普段から防衛はしてますよ、えぇ(^-^)

素晴らしい奥様じゃないですか。
結婚してない(出来ない)私がこんなこと言うのもおこがましいですが、積み上げた絆を大切に。

唐突にジャンル違い(間にゲームネタ入ってますが)に戸惑いながら全部読みました。

奥さんの話かーーーい!!ってツッコミながら
ごちそうさまでした!

12065 さん
「凸凹な〇を、綺麗な〇に研磨していく」
いい言葉ですね。おこがましいなんてとんでもないです。
いい言葉をありがとうございます。胸に染みました。

しょーけんさん
こちらこそお粗末さまでした!
忘れないうちに書いておこうと思って書きました。
たまにはこういうのもいいかなと。笑。

これなんて モノクロームサイダー ?

てか、多分 美人なんだろうなあー。もしくは美人と書けと言われて、八方つけました的な

のろけじゃん!!

ノロケかい!!!(憤怒)笑

たまにはいいじゃん!

12070さん
嬉しいことを書いてくれましたね。美人ってついてるので八方美人と言われても悪い気はしない不思議。

オチがどんなファミコンネタかな~と思ってたらまさかのおノロケオチとは!(笑)忘れた頃に突如とアップされるオロチ文学作品。久々に読ませていただきました。
しかしまあ…なんとも素敵な奥様ですこと。

このA子さんがこのブログの右上の方で「そんなこと知りませんよ……」しか言わない彼女なんですね。
お幸せにw

ノアノハコブネさん
コメントありがとうございます。いやあお恥ずかしい。

はっくさん
そうです。よく気づきましたね。笑

心温まるお話ありがとうございます。
私は自他共に認める極度のロジ男です。
うちの妻は八方美人のおっとり妻で
妻の実家は紅白歌合戦で大盛り上がりする
純粋な家族です。時に感動で涙しています。
うちの妻もおそらく育ちが良いのだと思います。
そんな妻が昨日、我が家の食品注文で
間違えてニンジン8本入りパックを
5袋注文し、ニンジン40本が届きまして
苛立った私は
妻に心ない言葉をかけてしまいました。
(こんな事がよくある)
ただ、オロチさんの今回のブログを拝見して
後悔しております。
20年以上レトロゲームを収集し続けている
私に悪態を一度もついた事がない妻に
私は文句を言える立場にないと。
今後、気を付けようと思います。
夫婦は180度タイプが違う者同士が良いと言いますし
離婚理由でよく聞く価値観のズレとは
同じ価値観を持っている者同士でのズレを
指すのだと感じます。
私たち夫婦も結婚16年目を迎えるのですが
互いのないものを補って
これからも仲良くやっていこうと思っています。
オロチさん夫婦に近いところを感じて
ついつい長文の投稿してしまいました。
我が家の小6男子も私の昭和玩具の虜で
父である私を親友と呼んでいます(笑)
それでは失礼しました。

コメントありがとうございます。私の境遇ととてもよく似ていてびっくりしました。私も紅白をまともに見たのは結婚してからですし。息子も小6です。ついつい心ない言葉をかけてしまうのも同じですね。年齢からか最近、あんなになりたくなかったクソジジイになってきました。お互い気をつけましょう。^^
価値観は最初から違ったら方が、ふとしたときに同じだったとき嬉しいですし、違ってもそれが当たり前だからショックを受けない。不良が更生したら褒められるメソッドと同じ原理ですね。笑

この話、奥さんは知ってるのかな?とドキドキしながら読んでました

「他人を信じられないくらいなら裏切られたほうがいいよ!」
そこで「武田鉄矢かーい」ってツッコんでたら今の人生は無かったかもですね

オロちゃんニュース!!
orotima-ku1.png Youtubeチャンネル「オロチレーベル」を開設しました!!
 失われたファミコン文化遺産「ショップシールの世界」2020年6月26日発売

Seach

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