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書籍「ゲームの歴史1」がプラスチック安価説を採用してる件

◆目を疑う記述◆

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 先月16日に発売された岩崎夏海・稲田豊史 著「ゲームの歴史1」に目を疑うような記述が存在することが判明した。

 それは第6章 ファミコンの誕生と『スーパーマリオ』革命と題された章の以下の部分である。

ge-munorekisi1.jpg

ファミコンの外装は白と赤(えんじ色)のプラスチックでしたが、これはプラスチックの中で最も価格の安かったのが、この2色だったからです。
出典:ゲームの歴史1 資料提供:ノヒイ ジョウタ


 こ、これは……!?

 もはやファミコン考古学会では「真実でない」ことが判明している「プラスチック安価説」じゃないすか。まさか、こんなところでお目にかかるとは!

 ファミコンがいかに高性能で安価だったかという説明をするのに、これ以上ないエピソードだと思って採用してしまったのかどうかはわからないが、ちょっと検索すればこの説がデマだということなどすぐわかるようなもの……。今からそれを解説していこう。



◆プラスチック安価説とは?◆

 そもそもこのプラスチック安価説は1996年、NHKによって放送された「新・電子立国 第4回 ビデオゲーム~巨富の攻防~」という番組を起源にするものである。


 その問題のシーンはファミコン開発の総責任者である上村雅之氏へのインタビュー中に差し込まれたもので、ファミコン本体の映像と共に「ボディのプラスチックは製造コストの低い白と赤を選んだ」とアナウンスされたものであった。つまりご本人の口から出たものではないのである。

 なぜここだけ急にアナウンスベースになってるのかその意図はまったく不明だが、たとえば後日、別の関係者から証言を得たので差し込んだのかもしれない。しかし、その前にひとつ素朴な疑問が湧いてこないだろうか。それは「プラスチックの製造コストは本当に白と赤が安かったか?」ってやつだ。



◆専門家たちの見解◆

 以前、弊ブログで同様の話題になったとき、プラスチック関係の仕事をされている読者の方から以下のような見解をいただくことができた。さっそく読んでみよう。

hontaicont009.jpg

私も仕事でプラスチック樹脂成型部品の設計を行うことがあるのですが、樹脂ビーズの色によるコスト差はあまり生じません。コストに支配的なのは部品サイズ、形状、そして生産ロット数です。さらにいうと、ファミコンカラーの白は成型時に異物(黒いごみ)が少しでも混入すると目だって不良品になるので、黒色のものより歩留まりが悪くなる傾向があり、コスト高になる傾向があります。


詳しく書いてる方がすでにいますが色によるコスト差はほぼ無いです。ですがプラスチックの製品は部品を外した後のいわゆるプラモデルのランナー的な部分を刻んで溶かして再利用して作ることが多いので黒っぽい色のほうが混ぜ物がしやすく現場レベルでは多少安くなるはずです。


当方、廃棄プラスチック製品のリサイクル業の会社に勤めております。この業界において、プラスチックの原料で一番高値で取引されているのは、透明(natural)、次いで白(white)だというのは周知の事です。ちなみに一番安価なのは黒。コストダウンの為に白色を選んだというのは、私的にはとても考えにくい事です。


 以上のようにNHKの主張するプラスチック安価説に対する専門家の見解は、なかなか厳しいものだったのだ。




◆かき消された社長指示説◆

 勿論、専門家ですらあずかり知らない裏事情でもって、白と赤のプラスチックが安かった理由があったかもしれないが(どこかのメーカーに大量に余っていたとか)、しかしながら、そもそもファミコンカラーについては、まったく別の理由のほうがNHKよりも先に世に出ているのだ。

 それは1994年に発行された「日経エレクトロニクス」の特集「ファミコン開発物語」である。本誌ではファミコン本体が赤白のカラーリングになった理由について以下のように記述されていたのだった。

社長の山内は、本体の色にもこだわった。(略)
あの色がいいといって山内が指さした。
その先には(中略)赤い看板が立っていた。
その翌日、社長は自分のマフラを上村の席まで
持ってきて、この色がいいともちかけた。
出典:日経トレンディネット(再掲)

 いわゆる「社長指示説」である。

 こちらの記事はその後、2008年10月に日経トレンディネットに再掲されていたので(現在は削除されている)これはそこからの引用だが、ご覧の通り「プラスチックが安かった」なんて話はまったく出てきていない。

 1996年にプラスチック安価説を唱えたNHKの「新・電子立国4」よりも日経エレクトロニクスの社長指示説のほうが2年も早かったことを考えると、ファミコンカラーについては最初から社長の指示だったという話だったのにもかかわらず、あとから「プラスチックが安かったから」なんていう別の話が出てきてしまったという構図になっていることがわかるだろう。しかも公共放送を自称する巨大メディア・NHKが唱えたとあれば、またたく間に世間に広まってしまうのは火を見るより明らか……。

 悲しいかな「社長指示説」は定着する前に駆逐されてしまったのである。




◆ご本人「これが真実です」◆

 しかしそんな状況のなか、2013年に決定的な出来事が起こった。

 週刊プレイボーイ 2013年5月13日号に「ファミコン30周年特集」内の上村氏へのインタビュー記事が掲載されたのである。そこで氏はファミコンカラーについて以下のように証言したのだ。

kamimuramahua-0.jpgkamimura.jpg

そういえば、ファミコンのえんじ色パーツは、その素材が大量かつ安価で仕入れることができたから採用されたという噂ですが!?
「それは間違いですね(笑)。むしろ逆で、最初に予定していた安いスチール製のボディがあまりにも脆かったので、強度の高いプラスチックに変更したくらいでしたから。えんじ色にした理由は、単純に社長命令だったんですよ。社長がよく巻いていたマフラーの色もあんな感じのえんじ色で(中略)
それが真実です(笑)

 なんとファミコン開発の総責任者である上村氏がインタビューアーから投げられた「プラスチック安価説」を明確に否定しているではないですか!

 さらに、おそらく氏はどういうわけかNHKが流布してしまった間違った説が世間に蔓延している状況をよく思ってなかったのだろう。わざわざ「これが真実です」という含みをもたせた言葉で締めくくっているのである。ご本人が自らの口でプラスチック安価説を否定。社長からの指示だったことを証言して「これが真実です」と念まで押している以上、それが真実なのだろう。少なくとも私はそれ以外の解釈ができない。

 そのへんのいい加減なまとめサイトの記事ならともかく、講談社という超一流出版社が出した「ゲームの歴史」という教科書みたいなネーミングの書籍に掲載する内容ならば、なおさらファクトチェックは徹底すべきであり、ファミコンを作ったご本人が明確に否定しているプラスチック安価説ではなく、「これが真実です」と明言している社長指示説のほうを採用しない選択肢などないと思うのだが……。



◆NHKとも食い違う記述◆

ファミコンの外装は白と赤(えんじ色)のプラスチックでしたが、これはプラスチックの中で最も価格の安かったのが、この2色だったからです。
出典:ゲームの歴史1

 ここからは少々蛇足である。気づいちゃったことがあるので最後に指摘しておこう。改めて「ゲームの歴史1」の記述を確認すると、そこには赤と白が「プラスチックの中で最も価格が安かった」と書いてあるのだが、プラスチック安価説の起源となったNHKの解説を確認すると、実は「最も」なんて一言もいってないのだ。

 つまり、NHKすら出典にしてないかもしれないのである!。

 試しに「ゲームの歴史1」の参考文献欄を確認してみたところ「新・電子立国」が掲載されていることはなかった。じゃあこの著者たちはどこからそのデマを仕入れたのだろうか。たとえばWEB上ではファミコンカラーについて以下のような言及が散見されるのだが……。

ちなみに、ボディカラーが白と赤なのは、当時のプラスチックでその色が最も安かったからです。

 このように世間の流布されているデマの場合は「最も」という誇張表現が付いていることが特徴的なのだ。できればこんなことは考えたくなかったのだが、「ゲームの歴史1」のファミコンカラーの部分については世間に流布しているデマを鵜呑みにしてしまった(あるいは鵜呑みにした資料を鵜呑みにしてしまった)可能性があるとことを私は否定できない。

 ああ、なんてこったい。


debsi54.jpg

 ちなみに新・電子立国4は書籍版もある。

 この本には「筐体の形も色はコスト削減のために徹底的に単純化された」という記述は見られるものの番組のような「白と赤のプラスチックが安かった」という解説は見つけられなかった。まあ、この書籍、ファミリーコンピュータのことを「ファミリーコンピューター(伸ばす)」と表記してる時点で、もう、私のなかではその程度のアレなんですどね……。



追記(2022/12/21)

 著者ご本人様より修正の約束をいただきました。





orotima-ku1.png何らかの形で訂正文を出していただけると、なお、よいかと存じます、って返信しようとしたら、もう訂正Tweetされておられた。。。



資料提供:画像協力:ノヒイ ジョウタ
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コメント

記述の根拠とは直接関係ないとは思うんですけど、この赤白のプラが安かった説、わりと最近に某Hろゆきさんが自分の生配信で言いふらしてて見てた人が結構信じ込んじゃってるっぽいんですよね(挙句こちらのブログの記述が正しい保証はない、と言い出す人までいる始末)

なんで伏せてるのかわからないけどひろゆきですね
その件に関しては(彼のファンは別として)大方の反応は”デマ”ということで正しく浸透してるので大した問題にはならないと思われます
※「ひろゆき ファミコン」で検索

度々この件の真実性を説かれてますがご自身のページで声を上げているだけでは残念ながら今後も発生するでしょうね。地味にコレクターやファミコンマニア界隈で浸透したとしても物書きが参考にするのは検索して情報が多く出るものなので…

ひろゆき氏がそんなことを……!?
これは厄介ですねえ。ツイッターでも逐一、注意喚起をすることにします。情報ありがとうございました。

ファミコンのえんじ色って、ゲーム&ウオッチでも同じ様な色が採用されていますよね?
社運をかけたゲーム機だったから、あの色は縁起担ぎの思いもあったのでしょうかね。マフラーに選ぶくらいだから社長のラッキーカラーとか?

まあ「社長の趣味で決めた」より「その2色が安かったから」の方が面白いですからね…

安いけど脆いスチール製ボディと言うのが全然イメージ出来なくて面白いと思うんだけど、これは合ってるのかな。

かなり板厚の薄い板金だったとか?
脆いというよりすぐに変形するような感じの。

よく考えてみたらスチール製じゃなくてスチロール製なのかな。
ポリスチレン(スチロール樹脂)だと脆かったのでABS樹脂にした。と言う事か。
なんだこれ。

いつも記事楽しく拝見しています。

似たような話でガンダムカラーに関しての記事が思い浮かびました。

青白赤のガンダムカラーに関して、ガンダムをデザインされた大河原氏のインタビュー記事にて、
https://animeanime.jp/article/2015/07/25/24263.html
> 富野さんは本当はRX-78を全部白にしたかったんです。
> けれども白だけでおもちゃにすると、ショーケースではカラフルなおもちゃにどうしても負けちゃうんです。
> 子どもが手を出すのはやっぱりカラフルなほうなので、それでおもちゃによく使われる色にしたというのが実感です。
と話をされており、少なくとも当時のおもちゃ業界では 青白赤 のような派手目な色が良く使われていた様です。

実際、玩具会社としての任天堂の商品群でも、ウルトラハンドの青赤、ウルトラマシンの青白赤、と言うように青白赤の配色が多く使われています。
ファミコンの配色もこれらと無関係でなく、元々少ない選択肢の中から選ばれていたのではないでしょうか?

と考えると、逆にNESやSFCをなぜあのような地味な配色にしたのか?その方が謎に感じてきました。

スーパーファミコンはファミコンでカセットを色んな色、形にしすぎた反動だと個人的には思いますねえ。NESに関してはアメリカ市場のマーケティングで、ああいう感じになったと、どこかで上村さんが言ってたような……。

なるほど。思い込みデマを発見された直後はここまで殊勝な態度だったのか作者。

今じゃあ、裏付けになるデータなんかいらねえんだと開き直ってるので、無い可能性の高い増刷の際の修正も期待薄ですね。

NESのデザインに関してはNetflixで視聴できる「ハイスコア: ゲーム黄金時代」って番組でアメリカの任天堂の担当だった人が日本のファミコンのデザインを酷評してた。
当時の海外のマーケットは良く分からないけど、あちらの国では凄い声がデカい人が居て「NESはワイ等が口出ししたから売れたんや」って感じでドヤってたのだけ覚えてる

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