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極めてアニミズム的なスーパーマリオのタヌキ論

◆懲罰的な変身譚◆

 『スーパーマリオブラザーズ3』の中でひときわ強烈な違和感を放つ存在がある。タヌキスーツだ。それは説明書に記載された物語に次のような一文があったからである。

コクッパたちが魔法の杖を盗みだし、
王様を動物の姿に変えてしまいました。(要約)
ファミコン版の説明書より

 じつは、このような懲罰的に人間が動物にされる物語はグリム童話「かえるの王さま」「兄と妹」や、ヨーロッパの古い伝承に多く見られる変身譚の類型なのだ。そこには動物の神性(アニミズム)を否定するキリスト教の影響を濃密に見出すことができるのである。

mariotanuki07.jpg

 旧約聖書の有名な一節を引いてみよう。

神は言われた。我々にかたどり、我々に似せて人をつくろう。そして海の魚、空の鳥、家畜、地の獣、地を這うものすべてを支配させよう。
出典:旧約聖書 創世記 1章 26節(iばいぶる

 キリスト教にとって動物は人間より下位の存在であることがここにハッキリと示されている。この宗教は一神教であるが故に他の神の存在をいっさい認めないので、未開の地のアニミズム(自然崇拝/動物崇拝)は、野蛮な宗教として徹底的に排斥してきた、という歴史がある。

 もちろん我が国にも多くの変身譚が伝わっている。しかし日本の場合、変身する主体がそもそも動物であることが多いのだ。「鶴の恩返し」「狐の女房」「うぐいす長者」などの昔話は動物が人間に化ける物語であり、しかもそれは(一時的ではあるものの)人間に恩恵をもたらす存在と描かれるのである。一番わかりやすいのは「鶴の恩返し」であろう。鶴の彼女は懲罰で仕方なく鶴になったわけでも、嫌々人間と結婚するわけでもない。

 つまりこのマリオ3の物語は極めてキリスト教的な影響を受けていると言えるのである。にも関わらず、そこへ唐突に投げ込まれたのがタヌキスーツなのだ。



◆マリオ世界の宗教観◆

 タヌキスーツの最大の特徴は「お地蔵さん」に化けられること。お地蔵さんとは仏教の中でも絶大な人気をほこる地蔵菩薩であり、その容姿から「子どもを守る仏様」として信仰されてきた。「タヌキ=化ける」という文化も日本特有のものだ。たとえば「宝満山のタヌキ」という話はタヌキがお地蔵さんに化けてお供え物を盗むという話だ。日本にはタヌキが化ける民話がたくさん語りつがれている。

 そもそも「お地蔵さん=無敵」というメカニズムが成立するためには、それが風景に溶け込んでいて誰も気にも止めない存在であるという共通認識が、このマリオ世界の住人の間に存在しなければならない。漫画やアニメでよくある「ショッピングセンターで悪者に追いかけられていてマネキン人形のふりをしてやり過ごす」みたいな文脈においての、お地蔵様なのだ。つまりそれは本来なら仏教文化の国でないと成立しないメカニズムのはず……。

 はたして、あきらかに西洋的な影響を受けているマリオの世界でそんな共通認識など存在するのだろうか。驚くべきことにその答えはクリア後に示されていた。『3』のエンディングで敵であるはずのノコノコが手を合わせている姿が確認できるのである。

mariotanuki04.jpg

 マリオシリーズにおいてこのような特定の宗教色の強い、というか特定の宗教の崇拝対象そのものがモチーフとして登場するのは極めて異例であろう。にもかかわらず、この宗教観のチグハグさはいったい何を意味するのだろうか?。

 それは当然の疑問ではあるが、じつは、これが意図したものなのかそうでないかは重要ではない。むしろこのような無頓着さは、作り手が無意識のうちに影響を受けてきたものが物語のディテールとして表出されたと解釈したほうがしっくりくる。



◆通過儀礼としてのタヌキスーツ◆

 そんなマリオの動物変身能力は、今では世界中に受け入れられているが、過去にはタヌキスーツが某動物愛護団体から抗議を受けたことがあった()。

 それは概ね冷笑的に受け止められたB級ニュースの類ではあったものの、あえて「マリオシリーズの通過儀礼のようなものだった」と捉えると、非常にアイロニーで示唆に富んだエピソードとなる。なぜなら実際に動物の皮をかぶるという通過儀礼はネイティブアメリカンの部族などに広く見られる行為だったからだ。その多くは崇拝する動物になりきることによって、その力を得ようとする儀式だった(まるでマリオのように!)。

 しかも歴史的にみると彼らのそのような儀式は、たいてい入植した西洋人の手によって「野蛮だ」と見なされ、ことごとく廃止に追い込まれているのである。挙句の果てには、架空のゲームキャラクターであるマリオにすら、そのような愚かな歴史を繰り返すつもりなのだろうか?。



 実は日本も例外ではなく古い伝承によると、山形県の西川地域では、熊狩りに初めて参加した若者に、まず最初に解体した熊の皮をかぶせるという儀式が行われていたのだという。(出典:「性食考」赤坂憲雄

 そう考えるとタヌキスーツは非常にアミニズム的な存在と言えるのである。



orotima-ku1.pngこの記事は2019年9月22日に公開した「タヌキスーツの異質性 【スーパーマリオをめぐる雑考】 1/4」のリライト版です。

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