マリオ映画がヒットした真の理由 ~根底に流れるヨコイズム~
マリオ映画に関して日経新聞のインタビュー記事を読んでいたら気になる記述があった。
「今回の映画ではいろいろな場面で状況を説明するようなセリフを省きました。シーンの描写を見れば、マリオがなぜここに来たのか、何を目指しているのか、分かるはずです。僕は10年ほど前から(NHKの)『朝ドラ批評家』を自称していますが、作品によっては場面説明がやたら多いものがある。あれは見ていて分からない人向けに仕方なくやるもので、本来的には状況説明がないドラマが一番だと思ってます」出典:マリオの父は滑らない 映画大ヒット、宮本茂氏の仕事術 - 日本経済新聞
状況説明がないドラマが一番!。
思えば、今回のマリオ映画が先行上映されたとき批評家からは低評価を食らったらしく、その理由が「ゲームを知らない人間にとっては説明不足だったから」というものだった。しかし宮本は言い切ったのだ。あえて説明をはぶいたのだと……。

出典:ファミコン通信1992年2月28日号 アートワークより
実際にマリオ映画は世界で1400億円を超える興行収入を得るくらい特大ヒットしまくってるので、この目論見は大正解だったということになるだろう。
しかし、なぜそこまでうまくいったのだろうか?。
その理由はマリオのゲーム自体が「説明の塊」だったからだと筆者は考えている。

たとえばマリオの初期ドットデザイン。
宮本が語ったところによると(※)、マリオのドットデザインは顔のパーツのひとつひとつから着用している衣服にいたるまですべてに理由があってデザインされていたことがわかる。マリオのデザインは極めて説明的なのだ。
当然、その哲学はステージデザインにも大いに発揮されている。

ゲームニクス理論(※)によるとゲームがはじまってマリオが左に居るのはステージが展開される右へプレイヤーを誘導するため。最初の敵がクリボーなのはカメとちがって踏めば一発でたおせるから練習になる。最初のキノコが土管で跳ね返ってくるのはアイテムを取らせ「これがパワーアップアイテムであること」を認識させるため……。
といった具合に、すべての配置やギミックにも理由があるのだった。つまり、スーパーマリオというゲーム自体が極めて説明的な存在なのである。もともとそのような意図でデザインされたゲームだったのだ。
では、このゲーム哲学の源泉はどこにあるのか。宮本が師とあおぐ故・横井軍平がかつてWEB上に存在したデジタルマガジン「GAME BUSTERS」のインタビュー記事において語った内容にそれを確認することができる。以下引用。

ゲーム&ウオッチのゲームを考える時に、まずは●とか■とかでどういう事をしたら面白いかを考えるわけですよ。つぎに、その映像を何に置き換えるかという時に、どうしたらそれを説明書無しに理解することができるかという「HOW TO PLAY」をキャラクタに置き換えるのです。それが本来のゲームの姿なんですよ。出典GAME BUSTERS 1997年7月28日付
「HOW TO PLAY」をキャラクタに置き換えるというのは、説明書を読まなくてもキャラクターを見ればだいたいゲームのやり方がわかるようなデザインを目指すということだ。
当然、宮本もこの考え方を受け継いでいて、上述のように「説明はすべてキャラクターやステージデザイン」に込めるというやり方をつづけてきた。それどころか、かつてのインタビューで宮本はそれを「マリオの原点」とまで表現したこともあった。
僕が話したことは、ちゃんと伝わったということですね(笑)。テレサもあっちを向いたら、→いないいないばーですよね。照れ屋さんだから、ほっぺたも赤くなるし。
そんなふうに、機能がわかりやすいすいようにデザインをすることが大事だと思うんです。ただ、「ユニークなものをつくろうよ」と漠然と言われても、聞いた方はどうしていいのかわかりませんよね。
そこで今回は、マリオの原点は、機能を形で表現することだから、そこから生まれるユニークなものをどんどんつくっていけばいいからという話をしました。わかりやすい方法でしょう?
機能を形で表現する……。
言葉は違えどこれは完全なるヨコイズムではないか。形を見れば機能がわかる。機能がわかればやり方がわかる。それはつまり「説明が要らない」ということなのだ。
筆者は現在SNS上で語られているマリオ映画のヒットの要因として「マリオのゲームは世界中で売れてるから」「世界観を説明する手間を省けたから」「世界規模の内輪受け映画だから」というだけでは、まだ芯を食ってないと感じていた。
だから、いっそのこと「マリオは元々説明が要らないゲームだったから」とまで言い切ってしまおう。

今回の映画の根底には、そんなヨコイズムが流れているような気がするのだった。
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