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任天堂はピザ屋をやっていた!! ~40年目の新事実~


◆ピザ・タイム・シアターとは?◆

山内溥は言った。
「そうだピザ、焼こう」と。

いまや世界的テレビゲーム企業である任天堂にも迷走時代というものがあった。かつて同社がインスタントライス開発やタクシー事業など他業種へ手を出していたことは、今でもイエロージャーナリズム系ネットメディアの格好のトリビアネタとなっているのでご存知の方も多いことであろう。※ただしラブホテルだけはやってないぞ。しかし同社がピザ屋を経営していたことまで言及している記事は皆無である。

GM840101米任天堂PTT開店0

それは今からちょうど40年前の話だ。

アミューズメント業界紙「ゲームマシン」1984年1月1日号によると米国任天堂(NOA)はカナダにNintedo Entertainment Centers社という現地法人を設立。1983年12月6日にバンクバーにてピザ・タイム・シアター(PPT)を開店させたらしい。

Nintedo Entertainment Centers社。
少々長いがこの社名は記事を読み終えるまで憶えておいてほしい。

piza12.jpg
(出典:Wikipedia「チャック E. チーズ」より

PTTについて説明しよう。かつて正式名を「Chuck E. Cheese's Pizza Time Theatre」といったこの大型ピザチェーン店は公式サイトによると1970年代後半にATARI社の共同創立者ノーラン・ブッシュネルによって設立されたのだという。
現在では訴訟合戦ばかりやってたイメージのある両社であるがこの頃は仲が良かったのだ。それどころか任天堂にはATARI社へ独占販売権を売りわたそうとしていたという黒歴史すらあるのはナイショだぞ!。

参考記事:スーパーマリオがATARIロゴの帽子をかぶっていた世界線 ~果たされなかった独占契約~

そんなPTTの最大の特徴はアミューズメントパークのような店舗だ。そこには数十台のアーケード筐体が立ち並び専用トークンを投入することでプレイが可能。しかもその得点に応じて商品と交換できるチケットが払い戻されるというシステムで若年層が大喜び。


 1990年頃の店内の様子。

また、小さな子どもが遊べる巨大遊具も設置されファミリー層も大喜び。

さらに、Chuck E. Cheese(ねずみのキャラクター)というマスコットキャラクターが4人の仲間たちとお店を徘徊。愛嬌を振りまきつつ、特設舞台ではアニマトロニクス技術を導入したChuck Eたちによるステージショーが行われるなど、まるでそこは小さな夢の国「ネズミーランド」だったのだ。 ※ちなみにTDLとファミコンは同い年である



◆ピザ屋オープンまでの経緯◆

なぜ任天堂はこの大型ピザチェーン店に興味をしめしたのだろうか。その背景についてはデビット・シェフ著「ゲームー・オーバー」が詳しい。



同著によると任天堂がレストラン事業に興味を示したのは1982年のこと。かつてレーザークレー射撃場の失敗で会社をつぶしかけたことのある山内社長(当時)は、それでもエンターテイメント施設の展開をあきらめきれずにいたのだ。

また、アミューズメント産業1984年1月号には“米国任天堂は、これまでも任天堂㈱のゲーム機を導入するなど「ピザタイムシアター」とは近い関係にあった”という記述がみられ、もともと関係性があったらしい。

さっそく組長は日本でのチェーン展開はもちろん、あわよくば買収まで視野に入れ当時NOA社長だった娘婿の荒川實にPTT本社へカチコミ、いや、訪問するよう命じた。すると荒川はピーター・メインという人物にそれを託した。彼はカリフォルニア州サンタクララ郡サニベールにあったPTT本社へ飛んだのだった。

piza04.jpg
(出典:Wikipedia「チャック E. チーズ」より

PTT本社へ到着すると同社のマスコットキャラクターChuck E. Cheeseが出迎えてくれた。メイン御一行は丸一日かけて様々な担当者や役員と会談を重ねひとつの確信を得た。やがて戻ってきた彼は荒川にこう言ったのだ。

「やめたほうがいい」

メインはPTT側の経営力の無さを見抜き荒川に忠告したのだった。一方で山内も大型施設となるPTTは地価の高い日本には向かないという結論を出していた。しかしどういわけか荒川だけはまったく違う決断を下すのだった。

「よしやろう!」
「ファッ!?」




◆勢いに乗るレストラン経営◆

その理由について筆者には思い当たるフシがあった。日経ビジネス1993年5月号の記述を引いてみよう。

piza03.jpg
piza06.jpg

同誌に特集された荒川實(本誌では「実」)インタビューによると、任天堂へ転じるまでの彼は丸紅の海外開発建設部の一員としてバンクーバーに駐在しており、ピーター・メインはそのときの隣人だったというのである。しかも彼は元々500店舗にも及ぶレストランチェーンを指揮する超有能な人物だったらしい。

なるほど。メインはその道のプロだからこそ冴えないPTT経営陣に暗澹たる未来を見ていたのか。そして荒川はそんな才気ある彼に任せれば逆にうまくいくと踏んだのかもしれない。どうやら荒川はメインのことをそうとう信頼していたようである。なぜなら彼はのち1987年4月にNOAへ入社。副社長の地位まで登りつめることになるのだから......。

また、それにプラスして2020年に発行された海外書籍「Beyond Donkey Kong」ではまったく別の要因も語られていた。

幸運なことに、チャック・E・チーズの親会社であるピザ・タイム・シアター社は、カナダに子会社を設立する予定だった。年末までにトロントにカナダ法人を設立する予定だった。このチェーンはすでに米国32の州で150店舗近くを展開しており、オーストラリアと香港に海外支店を開設しようとしていた。(翻訳)

なんとPTTはちょうどカナダへ子会社を設立する予定だったという。

かくして荒川率いるNOAはバンクーバーにてピザ屋を経営する運びとなった。するとテニスコート8面分のこの施設には連日ミーハー客が押し寄せるバズりっぷりで、初年度の売上高300万ドルを超える大成功を収めたのだった。




◆恵まれすぎた男・荒川實◆

「大変です。ブッシュネルがPTTを辞めました!」

勢いにのった荒川の元へそんな悪いニュースが飛び込んできたのは彼がちょうど2店舗目を展開しようとしていた矢先のことだった。皮肉なことにメインが予言した通りPTTはとっくの前から倒産寸前で、会長のブッシュネルが引責辞任してしまったのだ。
しかし話はここで終わらなかった。荒川はそれでもレストラン事業を推しすすめバンクーバーへ別の店舗を二軒もオープンさせたのだ。そんな姿を見た山内はそれを「余計な道楽」と切り捨てたといういかにも組長らしいエピソードが伝わっている。

そこまで言われても荒川はレストラン経営にこだわったのだが、その理由についても筆者には思い当たるフシがある。前出の日経ビジネス1993年5月号に以下のような記述があったのだ。

piza08.jpg
(前略)
その源となったのは、あまりにも恵まれすぎた自身の生い立ちにある。(中略)
オレは一生面白おかしく遊んでも生きていける。
それなら一体、何を目標に生きていけばいいんや。(中略)
社会の常識にとらわれず、好きなことを思う存分やれば、それでいいのではないか。

なんちゅう贅沢な悩みやねん。笑。

インタビュー記事で荒川は自身の人生観について上記のように語っていたのだ。おそらく彼はレストラン経営が思う存分やりたかった。案外それだけだったのだ。きっと。

piza09.jpg

こちらは1989年10月2日発行「ヤングジャンプEXPRESS」に掲載されていた荒川實インタビュー記事。いい笑顔してるやがる......。




◆ピザ屋は実在したか?◆

さて、ここで「めでたしめでたし」とならないのが弊ブログだ。本当にこのピザ屋がバンクーバーに実在し、なおかつ任天堂が経営していたのか?
何としてでも証拠がほしいところである。というのもこの「ゲームオーバー」という書籍。任天堂からお墨付きをもらっているわけではなく、かなりの割合で著者デビット・シェフ独自の脚色がくわえられていることが研究者の間で知られている資料なのだ。発行年からいって「Beyond Donkey Kong」も同書を参考にしている可能性が高いだろう。

というわけで調査を続行したところ協力者・BAD君さんがオープン当時のものと思われる新聞記事が見つけてくれたのだった。

PTT opening in Burnaby

Article from Dec 19, 1983 The Vancouver Sun (Vancouver, British Columbia, Canada) undefined

Burnaby opens

Article from Dec 8, 1983 The Vancouver Sun (Vancouver, British Columbia, Canada) undefined


1983年のThe Vancouver Sun紙によるとChuck E. Cheese's Pizza Time Theatreはバンクーバーではなく「バーナビー」という名の都市にオープンしたとのことであった。あれ、おかしいな......。

さっそく地図で調べたところバーナビーはバンクーバーのすぐとなりに位置する都市だということが判明した。もしかして任天堂とは無関係のお店だろうか。さらに調査をすすめたところ我々は1987年のピザの店舗別売上ランキングに、ゆるぎない証拠を発見したのだ。

こちら↓

piza07.jpg
 ※BC = British Columbiaの略

出たー!
Nintedo Entertainment Centers社。
みんな、ちゃんと憶えてたかな!?

なんと、かつて米国任天堂(NOA)がピザ屋さんをやっていた地はバンクーバーではなくその隣接市バーナビーだったのだ。詳しく調べてみたところ、このブリティッシュコロンビア州バンクーバーを中心とする都市圏は「グレーターバンクーバー地区(現:メトロバンクーバー)」と呼ばれ、経済的にも行政的にも非常につよい結びつきがある地域だということが判明したのだった。

もしかしたら愛知県民がみんな名古屋(都市圏)出身というようなノリでバンクーバー(都市圏)ってことにしたのかな。

piza16.jpg
出典:Careers at Nintendo of Canada, Ltd. – Official Site – Employment Opportunities 

ちなみに協力者・初心カイさんによると同社はカナダ任天堂の公式サイトにも名前が載っており1990年には合併により消滅しているとのこと。少なくともそのときまでにはPTTを手放していたことが推測される。



🐍🐍🐍



以上で今回の調査を終えたいわけだが、最後にチャーミングなChuck E. Cheeseたちのステージショーでも見ながらお別れするとしよう。



て、ちょっと待って......。

!?

piza11.jpg

いやいや。
思いっきりマリオみたいなやつおるやん。笑。

(了)



orotima-ku1.png偶然にしてはマリオ過ぎて草w



調査協力者(敬称略)
BAD君
初心カイ




2023/10/23 
PTTがNOAのゲーム機を導入していた件を追記。(出典

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コメント

アメリカは車社会なこともあって、大都市が延々広域に発展しているため「都市圏」って概念がよく使われるんですよね。

カナダのバンクーバーから大して遠くない、オレゴン州最大都市のポートランド都市圏にも「バンクーバー」という街が含まれていて時々ややこしくなってしまう。

まあ東京ディズニーランドも東京じゃないしね。

13881さん
なるほど。その視点はありませんでした。たしかに車社会のアメリカはスケールが違いますね。

13882さん
TDLがファミコンと同い年という伏線回収!

Chuck E. Cheese's Pizza Time Theatreは
ゲームFive Nights at Freddy'sの元ネタの一つですね。
かつてAtariや任天堂が関わっていたとは驚きです。

いつも楽しく拝見しております。
「Chuck E. Cheese's Pizza」の情報ありがとうございました。
というのも、当方幼年時代にアメリカで暮らしていたことがあり、その際に友達の誕生日パーティーが「なんかすごいショーをやっているピザ屋」で盛大に行われたことがあり、ピザ屋の名前も覚えておらず、ずっと謎でした。
店舗や時代によってショーの規模は違うのでしょうけれども、正しくコレです!!
マンマミーヤ!
ありがとうございました。

13886 さん
不勉強ながらFive Nights at Freddy'sというのを初めて知りました。こちらこそありがとうございます。

13887 さん
アメリカで誕生日パーティをやる定番の店だということは小耳にはさんでおりました。なんと実際に体験されたのですか。じゃあショーも生で見たのですね。それはすごい。お役に立てたなら何よりです。

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