<ファミコンにおける○○編ソフト> ファミコンにはタイトルに○○編ってつくソフトがいくつかある。便宜上これらを“
○○編ソフト”と呼んでおこう。
「○○編ってことはシリーズ化するんだろうな」
「きっと続編が出るんだろうな」
当時のファミコン少年たちはそんな夢を膨らませて○○編ソフトのタイトルを眺めていたんじゃないだろうか。でも僕の記憶が正しければ、そういうのに限って、たいてい出なかったんだよね。続編が。
いや、今までなんとなくそう思っていたんだけど、今回、○○編ソフトを調べていくなかで、僕は非常に
興味深い結論に達してしまったのだった・・・・・・
まず、以下に挙げる○○編ソフトには、いずれも続編が出ていない。
・『奇々怪界 怒涛編』(タイトー/87)
・『火の鳥 鳳凰編 我王の冒険』(コナミ/87)
・『ラディア戦記 黎明篇』(テクモ/91)
・『エモやんの10倍プロ野球 セリーグ編』(ヘクト/89)
・『釣りキチ三平 ブルーマーリン編』(ビクター/88)
・『株式道場-実践編-』(ヘクト/89)
・『100万$キッド 幻の帝王編』(ソフエル/89)
・『本将棋 内藤九段将棋秘伝 入門編』(セタ/85)
・『マイケルのENGLISH大冒険 マイケルの単語帳(初級編)』(スコーピオンソフト/87)
こいつらはいったいどういうつもりで○○編などと謳っていたのだろうか。手始めにそこから検証していきたい。
<差別化をはかるため> まずは『奇々怪界 怒涛編』について。
こちらはオロチ所有の『奇々怪界』 『奇々怪界』はもともとアーケードゲームであり、ファミコンに移植するにあたって大幅なゲーム内容の変更があったという。主な変更点は以下の通り。
・フィールド探索型に変更 ・ライフ制の導入 ・お札の枚数制限 ・アイテムの購入 ・貧乏神三人衆など新キャラクターの追加 (Wikipediaより引用) |
これらの変更によってアクションゲームだったアーケード版と違い、ファミコン版はアクションRPGに近くなったと言われている。つまり「怒涛編」と名づけられたのはアーケード版との
差別化をはかるためだったようだ。
現に、同ゲームソフトはMSX2やPCエンジンにも移植されているが、いずれも内容がアーケード版に準拠した作りになっており、○○編とはなっていない。
つづいて『100万$キッド 幻の帝王編』について。
カセットのラベル画 こちらは週刊少年マガジンに連載されていた漫画(内容はそうとうぶっ飛んでいたらしい
参照)を原作としており、版権ものだったことがわかっている。
しかしこの原作版に幻の帝王編というのがあったかどうか確認できなかったため、おそらくは、こちらの場合も『奇々怪界』同様、原作版との差別化をはかるためだったということにしておこう。
<元ネタが○○編だった> 次に『火の鳥 鳳凰編 我王の冒険』の場合。
(C)角川エンタテインメント 『火の鳥』は漫画界の巨匠・手塚治虫氏の代表作。黎明編、未来編、ヤマト編などさまざまな編があり、鳳凰編はその1つである。
そしてコナミが発売したファミコンソフト『火の鳥 鳳凰編』は、1986年に公開された同名映画をゲーム化したものであり、つまり
元ネタが○○編だったということになる。その証拠に同時期に発売されたMSX2版も『火の鳥 鳳凰編』であった。
ちなみに同様の現象は以下のナンバリングソフトにも起こっている。
・『キングコング2 怒りのメガトンパンチ』(コナミ/86)
・『キョンシーズ2』(タイトー/87)
・『グレムリン2』(サンソフト/90)
・『ターミネーター2』(パックインビデオ/92)
これらのゲームソフトはいずれも元ネタが映画であり、そのタイトルがもともと『2』だったので、ファミコン版における『1』は存在しないことがわかっている。
※なおファミコンには『ドラゴンスレイヤー4』や『ミッキーマウス3』(いずれもローマ数字表記)というのもあるが、こちらはファミコン以外で前作が出ていたパターンである。<内容を示すためのもの>・『エモやんの10倍プロ野球 セリーグ編』
・『釣りキチ三平 ブルーマーリン編』
・『本将棋 内藤九段将棋秘伝入門編』
・『マイケルのENGLISH大冒険 マイケルの単語帳(初級編)』
・『株式道場-実践編-』
以上のものについては、ただ単に「内容を示すため」だけに○○編とつけた可能性が高い。つまり、続編を意識しているというよりは、
下層カテゴリーを示している、あるいは
レベルを示しているに過ぎないということだ。
たとえば『エモやんの10倍プロ野球』の場合、
ドリーグでも、ヌリーグでもない。セリーグなんだなってわかるし、『釣りキチ三平』の場合ブルーマーリンを釣るんだなってのがわかる。いずれもプロ野球→セリーグ、釣り→ブルーマリーンという下層カテゴリーを示しているにすぎない。
そして『本将棋』の入門編、『マイケルのENGLISH大冒険』の初級編は、レベルを表してるんだなってことがわかるだろう。『株式道場』にしたって実践編ということは、やはりある程度のレベルを示しているのだ。
※なお『釣りキチ三平』については、原作の第13章の副題が「ハワイのブルーマーリン」となっており、もしかしたらこの章のゲーム化なのかもしれない。<続編を狙っていた○○編ソフトは唯1つ!?> そう考えると最後に残った『ラディア戦記 黎明篇』だけは、どうやら本気で続編を狙っていたようなのだ。
「黎明」だって内容を示しているじゃないかという反論があるかもしれないが、まず黎明という漢字である。他のゲームソフトの○○編と比べると難読度が高く、その上『編』じゃなくて『篇』という常用外漢字を使っているあたりも、続編への並々ならぬ意気込みを感じずにはいられない。
れい‐めい【×黎明】 1 夜明け。明け方。 2 新しい事柄が始まろうとすること。また、その時。「民主主義の―」 (Yahoo!辞書より引用) |
しかもこの意味である。それ自体が何かの続編じゃない限りファミコンで初めて発表されるゲームが
「物事のはじまり」でないわけがないのだ。ドラクエで言えば最初から『ドラクエ1』と名乗っているようなもの。
つまり「黎明」は下層カテゴリーを示しているわけでも、レベルを示しているわけでもない。ただ単に『1』と言っているのである!

まあ、他に理由があるとしたら、語呂が良かった、字面が良かった、ノリで、など考えられないこともないが、事実がどうであれ当時のファミコン少年たちがタイトルに添えられていた「○○編」に期待する思いは「続編」だったことに変わりはない。
たとえ目の前に当時の関係者が現れて「あれはノリでつけました」と告白したとしても、それは結局、続編が出なかったという事実の前では
言い訳にしか聞こえないのだ。
もちろん、前段で挙げた『エモやんの10倍プロ野球』もパリーグ編を見越していたかもしれないし、『本将棋』にしても初級編、中級編、上級編と出していくつもりだったかもしれない。
しかし今となっては、どんな理由があったにせよ、いずれも続編が出なかったという事実のみが残った。それがすべてなのだ・・・・・・
※ちなみにこの『ラディア戦記』は、ゲームクリエイターの吉沢秀雄氏(現在バンダイナムコ)が製作に関わっており、同氏がプロデューサーをつとめたPS用ソフト『風のクロノア』との類似点(シナリオ、ボスキャラの名前など)がいくつか指摘されている。
そのため、一部のファンの間では『風のクロノア』こそ『ラディア戦記』の続編なんじゃないかと言われているが、そんなむなしい続編探しをさせてしまうほど『ラディア戦記』のシリーズ化は当時のファミコン少年たちの悲願だったことが伺えるエピソードではないだろうか。<シリーズ化された○○編ソフト> では、ここで逆にシリーズ化された○○編ソフトを見てみよう。なお、ディスクの前編、後編ソフトについてはその性質上、○○編ソフトには含めないものとする。
・『聖闘士星矢 黄金伝説完結編』(バンダイ/88)

こちらは『聖闘士星矢 黄金伝説』(バンダイ/87)の続編にして完結編である。便宜上『2』と呼ばれることが多い。
・『熱血高校ドッジボール部サッカー編』 (テクノス/90)

ご存知『熱血高校ドッジボール部』(テクノス/88)のサッカー編。
・『なんてったって!! ベースボール 子ガメカセット '91開幕編』(サンソフト/91)
・『なんてったって!! ベースボール 子ガメカセット OBオールスター編』(サンソフト/91)
これらは『なんてったって!! ベースボール』(サンソフト/90)の子ガメカセットで、2本のみ発売された。詳しくは
こちら。
・『燃えプロ! '90感動編』(ジャレコ/90)
・『燃えプロ! 最強編』(ジャレコ/91)
言わすと知れた『燃えろ!!プロ野球』(ジャレコ/88)の続編たち。
以上。
こうやって見ていくと、これらのタイトルのすべてがシリーズ化されたというよりも、シリーズ化されたファーストタイトルの
「続編そのもの」だったことがわかる。つまり正確に言えばそれ自体がシリーズ化されている訳ではなかったのだ。
ということは・・・・・・!?
<驚愕の真実> どうやら僕は驚愕の真実にたどり着いてしまったようだ。
僕が調べてきた限りでは○○編ソフトは以上となる(漏れがあったらごめん)。そして僕は今まで○○編ソフトについて、
“たいてい続編が出ることはない”と思っていのだが、どうやらそれは間違いだったようだ。真実はもっと残酷だ・・・・・・
そう、それらに
続編などいっさい出てなかったのである!
主なシリーズ化のパターンを表した図 なんだかんだ言っても、メーカー側はおそらく「××編も出すぞ」という意気込みで○○編ソフトを世に送り出したんだと思う。だが、それらのタイトルのことごとくは例外なくその1本で終わっていた。つまり、○○編という言葉に「続編」を期待していた
ファミコン少年たちの思いは常に裏切られていたのである!
まさに知らないほうが良かった“驚愕の真実”じゃないか!?
<○○編は悪魔の言葉!?> 理由はわからない。とにかくそれは悪魔の言葉だった・・・・・・

ファーストタイトルに○○編とつけたが最後、もう二度と××編が出ることはないし、△△編が出ることもなかった。きっと現代科学では解明できない大宇宙的な法則がそこには横たわっていたのだろう。
それとも単なる神様の気まぐれだろうか。いずれにしても残念ながら、これ以上調べる気力も体力も失せた。したがって今現在、この法則は破られているのかもしれないが、最後に僕が何か言えるとしたら、これだけだ。
「ゲームをつくるときタイトルに○○編ってつけないほうがいいよ!」
<補足>
『編』と似た言葉に『版(バージョンも含む)』というものがあるが、ファミコンにおけるそれらの○○版ソフトはすべて続編とみなすことができるため、今回の検証の対象外とした。以下そのファーストタイトルを含めた一覧(太字が○○版ソフト)
・『信長の野望 全国版』(光栄/88)
・『信長の野望 戦国群雄伝』(光栄/90)
・『信長の野望 武将風雲録』(光栄/91)
・『燃えろ!! プロ野球』(ジャレコ/87)
・『燃えろ!! プロ野球’88決定版』(ジャレコ/88)
・『究極ハリキリスタジアム』(タイトー/88)
・『究極ハリキリスタジアム '88選手 新データバージョン』(タイトー/88)※唯一の○○バージョンソフト
・『究極ハリキリスタジアム平成元年版』(タイトー/89)
・『プロ野球ファミリースタジアム』(ナムコ/86)
・『プロ野球ファミリースタジアム’89・開幕版』(ナムコ/89)
※この一覧を見ると『信長の野望 全国版』(光栄/88)が法則を破っているように見えるが、同タイトル自体、もともとPC版『信長の野望』の第2作目『信長の野望 全国版』の移植版であるため、元ネタが○○版だったということになり、さらに『火の鳥』のケースと異なり、元ネタもゲームであるため“それ自体が続編”とみなすことができる。まあ、正直どっちでもいいんだけど(笑
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