<あなたは伸ばす派?伸ばさない派?>「ファミコンって何の略か知ってる?」
「うん、知ってる、ファミリーコンピューター(伸ばす)でしょ」
「違うよ、ファミリーコンピュータ(伸ばさない)だよ!」
このブログを愛読しているようなファミコン少年の諸君なら、このようなやり取りをしたことが1度や2度あるはずだ。そしてファミコンの略は間違いなく「ファミリーコンピュータ(伸ばさない)」のほうである。その理由は以下の有名な一文が存在するからだ。
※実際の画像「ファミリーコンピュータ・ファミコンは任天堂の商標です」
任天堂のファミコン関連商品には必ずといっていいほど記載されているあまりにも有名な一文である。ファミコン世代の人間なら絶対に知ってるし、ゲーマーの間ではなかば常識的なフレーズだ。そしてこうやって並べて書いてある以上「ファミリーコンピュータ、略して、ファミコン」以外の解釈などできやしない。
つまりファミコンの正式名称は「ファミリーコンピュータ(伸ばさない)」で間違いないのである。その一番わかりやすい証拠に、
任天堂公式サイトもこの表記なのだ。
じゃあなぜ伸ばさないのかというと、メモリ、プロバイダ、ブラウザなど昔からコンピュータ用語は(なぜだか知らないが)
末尾を伸ばさないで書くのが慣例になっていたからある。ファミコンだって立派な8bitコンピュータなのだから、その慣例に従っていたって何もおかしくない。たぶんそれ以上の理由なんてないのだ。いや、もっと言えば、そもそも商品名なんだから理由なんてどうでもいいとすら思う。
そこには“任天堂が「ファミリーコンピュータ(伸ばさない)」を商品名にした”という事実のみが存在するのだ。ただそれだけのことじゃないか……
<ハイフンの意味がわからない!?> しかしそのように思っていた僕が、突然、横からブン殴られるようなことがあった。なんとなくWEB辞書で「ファミリーコンピュータ」を検索してみたのだ。すると・・・・・・

なんと、そこには
ファミリーコンピューター(伸ばす)という文字が!?
しかしよく見ると「ファミリー」と「コンピュータ」の間がハイフンが入っている。これはおそらく和製英語としての《Family+Computer》の読みとして、そう表記しているのだろう。
たしかに「FamilyComputer」は「ファミリー」と「コンピューター」の合成語かもしれん。でもファミコンの正式名称は「ファミリーコンピュータ(伸ばさない)」のはずで、僕は「ファミリーコンピュータ(伸ばさない)」で検索したのだ。なぜ「ファミリーコンピューター(伸ばす)」が出てきてしまうのだろうか?
だが一番問題をややこしくしているのが次の文章だ。そこには
“任天堂が開発したテレビゲーム用コンピューターの商標名”とバッチリ書いてあったのだ・・・・・・
ためしに「ファミコン」で検索すると以下のような結果となった。
ファミコン テレビゲーム用のコンピューター。「ファミリー‐コンピューター」の略。ともに商標名。
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こちらにもハイフンのやつが顔を出していた。しかも
“ともに商標名”ときた。これはおかしい。何度も説明しているように
任天堂が商標だと主張しているのは「ファミリーコンピュータ(伸ばさない)」のほうであって伸ばすほうじゃないのだ。
そもそもこのハイフンは何を意味しているのだろうか。ちょっと別の角度から攻めてみよう。和製英語+商標ということで「マジックテープ」で検索だ。
マジック‐テープ【Magic Tape】 鉤状とパイル状の表面を持つ2枚一組からなり、重ね合わせて留めるテープ。商標名。
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これらの結果を見るに、ハイフンは単語の区切りとして入ってるだけで、無いものとして考えても良さそうだ。しかし、そうなってくるとこのWEB辞書は「ファミリーコンピューター(伸ばす)」のほうこそファミコンの正式名称だと言ってることになってしまう・・・・・・
と思っていたら何のことはない。
ハイフンすらなく、もろに「ファミリーコンピューター(伸ばす)」を任天堂の商標だとしているWEB辞書などたくさんあったのだ。面倒くさいので以下に列挙する。
こちら。
こちら。
こちら。
こちら。
<そもそも“ファミコン”は家電だった!?> ということで僕のファミコン正式名称への旅は始った。
まず調べたのはファミコンの商標についてである。もともと“ファミコン”は、シャープのオーブンレンジの商標だったという話は有名だ。内容についてはこちらのサイトが詳しい。
・
「ファミコン」商標は誰のものか?(Runner's High!)
特許庁のデータベースによると“ファミコン”に関しては2011年9月現在、以下のように登録されている。
※なお、リンク先は直リンできない仕様なのかエラーになってしまう。気になるひとは改めて調べてみてくれ。
・ファミコン
【登録番号】 第1681105号
【登録日】 昭和59年(1984)4月20日
【出願日】 昭和56年(1981)3月30日
【権利者】 シヤ-プ株式会社
・ファミコン
【登録番号】 第1965158号
【登録日】 昭和62年(1987)7月23日
【出願日】 昭和59年(1984)7月27日
【権利者】 任天堂株式会社
なるほど区分が違うにせよ、シャープのほうが任天堂より3年ほど先に「ファミコン」についての商標を取得していることがわかる。(詳しい経緯などは上記サイト参照)
しかしファミコンの発売は1983年7月14日だったはずで、そうなってくると任天堂は
ファミコンが発売して少なくとも4年は商標登録してなかったことになる。じゃあファミコン発売以来ずっと記載されていたあの一文は何だったんだろうか!?
ここで新たな疑問が生じてしまった・・・・・・
<あの一文の真相> あの一文は任天堂のフライング表記だったのだろうか。しかしこの疑問はすぐに解決した。あの一文をもう1度よく読み返してもらいたい・・・・・・
そう、任天堂は“商標”と言ってるだけあって
“登録商標”とは言ってないのである! なんだこのキツネにつままれた感じ。しかしこれはどうやら商標を取り遅れていた任天堂の苦肉の策だったようだ。あらゆるファミコン関連商品に徹底してこの一文を記載することによって、そういう既成事実をつくってしまおうという作戦だったのである。
当時の状況について、任天堂公式サイト 社長が訊く「スーパーマリオ25周年」ファミコンとマリオ編“
3.トラブル続きだったファミコン黎明期”において当時総務部長だった今西絋史氏(現顧問)は以下のように語っている。以下そこからの引用。
ええ。当時はライセンスビジネスが確立されていませんでした。 (中略) しかもファミコンソフトの特許があるわけでもないので、 われわれとしては 「ファミリーコンピュータは任天堂の商標です」という 商標権だけで対応せざるを得なかったんです。
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具体的な言及こそしてないが「そうせざるを得なかった」という表現が当時の状況を物語っている。だって「商標です」と言ってるだけでは法的な拘束力などいっさい無いのだ。でも当時の任天堂はそれなりに力を持っていたので、その主張がまかり通ったのだろう。
事実、1987年に「ファミコン」の登録商標を取得するまで、任天堂がこの件に関して大きな損害をこうむったという話は聞いたことがないのだ。
<ファミコンに関する商標> ここで任天堂が取得している商標についてさらに調べみたい。まず「ファミコン」に関する商標は
全部で96件あった。基本的に同じ「ファミコン」でも区分が違うため、このように数件にも及ぶわけだが、中には○○ファミコン、ファミコン○○といった関連するものも含まれている。気になったものをいくつかピックアップしてみよう。
※ただしリンク先はあいかわらず直リンできない仕様なのかエラーになってしまいます。ご了承ください・
ファミコン名人 任天堂の名人って誰だっけ?・
ファミコン新聞 こんな新聞あったら毎日とります。・
ウルトラファミコン スーパーファミコンの別名だったのか?・
ポケットファミコン こっちはゲームボーイの別名か? 次に、「ファミリーコンピュータ(伸ばさない)」に関する商標だが
全部で19件あった。
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ファミリーコンピュータ こっちも「ファミコン」と同じく1987年の登録となっている。それ以外のものは同じ表記でも区分が違っていたりするものである。
そして最後に「ファミリーコンピューター(伸ばす)」に関してだが、じつは1件あったのだ!
・
ファミリ-コンピュ-タ- しかも出願日が昭和58年(1983)6月2日となっていた。なんとこっちのほうが「ファミコン」や「ファミリーコンピュータ(伸ばさない)」よりも早かったのだ。しかしなんらかの事情で登録までに時間がかかってしまったのだろう。結局、登録されたのは平成6年(1994)11月30日。申請から10年以上も経ったときだったのだ。
まあ、なんにせよ
他に比べると少ない1件だけではあるが、任天堂は「ファミリーコンピューター(伸ばす)」でも商標をとっていることがわかった・・・・・・
<結論> つまり結局のところ「ファミリーコンピューター(伸ばす)」を“任天堂の商標名”とする上記の
WEB辞書たちの主張は間違いではなかったということになる。しかし企業が自社の商品名に類似する言葉を商標登録してることはよくあるだ。できれば、こんなことは言いたくないが、WEB辞書たちはたまたまラッキーパンチで合っていたに過ぎなかったと言わざるを得ない。
ファミコンの正式名称はたとえ天地がひっくり返ろうが「ファミリーコンピュータ(伸ばさない)」なのである。したがって、もしWEB辞書の担当者がこのブログを偶然でも見てくださっているなら、是非、この有名な一文を思い出してほしい・・・・・・

そして任天堂が必死こいて主張していたのは「ファミリーコンピュータ(伸ばさない)」のほうだったのか、ということを知ってほしい。僕はそう願うのである。
補足1:ちなみに任天堂は「FAMILY COMPUTER」(英語表記)でも7件の商標を取得している。
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ファミコンの場合もそれに準拠したため、ややこしくなってしまったんでしょうね。